第三十二話 サージ門
東西の山に挟まれる構造となっている巨大な鉄門。その南側に一列に並ぶ隊列の姿があった。ギドクはそれを確認すると軍馬の足を緩め、ゆっくりと近づいてゆく。
「戻ったか、ギドク」
中央で待ち構えていた将──デイタクトが話しかける。
「…ふん、面白くもない。陛下はどうされたのだ。スーク卿がついていながらこの体たらくとは」
馬を降りながらギドクは毒づいた。そのままデイタクトと並ぶと、二人で門の中へと入っていく。
「ギドク、これはスーク卿の策だ。全ては宰相の思惑通りに事が進んでおる」
「…策?」
訝しげな顔でギドクがデイタクトに尋ねる。
「そうだ。まずは中に入れ。一杯やりながら語ろう」
鉄門の西側──塔のような構造になっているそこへ二人は向かう。その後ろでギドクが率いるレトの軍勢が野営の準備を始めていた。その中にカラヴァーンの姿もある。彼は静かに二人の後ろ姿を見送っていた。
「…よろしかったのですか?我らは元が付くとはいえノイ=ウル軍。ウルの駐留軍と共にいた方がアラメイニに目を配りやすかったのでは…」
カラヴァーンの後ろに控えていたキシュルが静かに訊いた。
「よいのだ。…それよりお前こそ、このサージ門にはあまり寄り付きたくなかったのではないか?何しろ、ここには…」
「──そのようなお気遣いは無用です。私はあくまで軍師の補佐役」
少し語気を強めてキシュルが言う。その様子にカラヴァーンは笑みを浮かべていた。
「お主がそう言うのなら、別に我は構わんがな」
そう言って、カラヴァーンは出来上がったばかりの幕舎へと入っていった。中にはすでに簡易的なテーブルとベッドが置かれ、ライ酒が注がれた杯も用意されている。
「レト、ノイ=ウル、マハタイト、そしてアラメイニ…イセルディアでの国のあり方が目まぐるしく変わってきている」
カラヴァーンはゆっくりと椅子に腰を下ろすと、テーブルに置いてある杯を手に取り、一気に飲み干した。
「ここからだ…。ここからが正念場。我らが時代の寵児となれるか、深き闇に飲み込まれるか…。全てはこれからの采配にかかっている」
睨みつけるような、それでいて挑発的なカラヴァーンを、キシュルは言葉を発することなく静かに見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます