第三十一話 アラメイニの将
「…サザニール将軍、どういうことかな?」
老将──ギドクはその彫り込まれた積年の皺を一層深め、目の前に立つ、のっぺりとした顔の将に尋ねた。
「何度も言わせるな。このウル、及び周辺の都市はアラメイニ駐留軍が一時的に統治することとなった。理由は混乱を極めるウル地域一帯の民を鎮め、この地に安寧を築く必要があること。期限は特に設けず。──以上だ」
「逆徒サジクラウを討ち、戦に勝利したのは我らの軍である。アラメイニの兵はあくまでも増援としてこの地に参ったと聞いておるが…?」
「知らぬ」
低く凄みを利かせたギドクの問いに一切臆することなく、サザニールは一言でそれを退けた。
「…将軍、これは国と国との話なのだ…。すでにエメイン王とも話はついておる。ほれ、これが王からの書状だ」
そう言って、サザニールはギドクに一通の書簡を投げ渡した。ギドクはそれを開くと目を通し、特に表情を変えることなく近くの従者に渡し返した。
「分かったな。貴殿は直ちに王都に戻り、自らの責務を果たすがよかろう」
しばらく黙り込んだままのギドクは一息吐くと、サザニールの顔を一瞥し振り返った。
「釘を差しておくが…他国の軍勢が…所詮海向こうの北方勢が、この地を永劫治めようなどと、ゆめゆめ思わぬことだ…。またあらためてウルに参る」
ギドクはそう言い残すと幕舎をゆっくりと出ていく。サザニールはその様子をしばらく言葉を発することなく見送っていた。
「…レトはルシュの頃まで遡れば数千年の歴史を持つ文明国と聞いていたが…。どうにも話にならぬ老いぼれが、よもや主軍を率いているとはな。これは先が思いやられる」
引きつったような笑いでサザニールが呟く。
「テンツ、今後の手筈はどうなっておる」
横に控えているテンツと呼ばれた若将が、サザニールの前に静かに進み出た。
「は…まずはこのウルを含め、各都市への統治布告。それと効率的な守備兵の配置、兵と税の徴収。それに加え本国より兵站の確保も肝要かと…。おおよその完了までには早くとも七ヶ月か八ヶ月ほど要すと見ております」
「ふむ…年を跨いでの大事業だな。よし、全ての進行はお前に任す。私はウルの宮殿を見て回ろう。…何やら、ここの財と女は我が国とは全く趣が違うと聞くぞ」
「かしこまりました…」
深々と頭を下げるテンツに振り返ることなく、サザニールは軽い足取りで幕舎を後にした。
「…よし!それでは、まずは…」
ほどなく幕舎では慌ただしくテンツの指示が飛び始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます