第十七話 西壁の大都へ
「…ウルヴン、随分とフェイからやってきたけど…」
ガラガラと蹄の音と荷車を引く音が辺りに鳴り響く。灰色の土埃が車輪の後ろから舞い上がっては、ゆっくりと消えていった。
「ええ。疲れましたか?」
穏やかに聞くウルヴンにイリアスは首を横に振った。
「ボクは王庭での僅かな記憶以外はフェイでの暮らししか知らない。これほどまでに世界というものが広いとは思ってなかったよ」
「ははっ。若、世界はまだまだこんなもんではないですぞ」
ガトラが大空に笑い声を響かせた。
「どこまでも続く稜線。灼熱の砂漠地帯。深く透き通る地底湖。そして遥か彼方、誰も乗り出した者はいないという海の果て」
「…海?」
不思議そうな顔でイリアスが尋ねる。ガトラは大きく頷いた。
「そうです、海。名前くらいはお聞きになったことがございましょう。この大地は東西南北が全て海に囲われた世界です」
「そんなに慌てず紹介しなくても大丈夫ですよ、ガトラ」
嗜めるようにウルヴンが口を挟んだ。つまらなそうにガトラが黙り込む。
「いや、興味があるよ。まだまだボクが知らないことだらけだ。王家の血を引いていなければ色々なことに触れられる冒険者になるという道もあったかな」
微笑みながらイリアスが言った。バツの悪そうな顔をしているガトラをそのままに、ウルヴンが応えた。
「若君、そう言っているうちにほら、見えて参りました…」
ウルヴンの言葉を合図に、他の三人が改めて前方を見やった。地平線に溶けているが、確実に異彩を放つ細い影──それが左右に果てしなく伸びている。その中央には何かが大地から生えているような…やはり黒い影を落とす巨大な建造物が、無造作とも言える配置で乱立している。幾筋か、煙が上がっているようにも見えた。
「あれがマハタイト公国の首都エル=エレシア…偉大なる西壁に築かれた、尖塔立ち並ぶ巨大都市です」
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