第56話 制服でカラオケ 2

 薫とのデュエットを終え、俺はホッと息を吐く。

 

 初めて歌ったにしてはよく歌えていた方だろう。薫の方も特に外したようなところはなかったし、いい感じの点数が出るんじゃないか?

 

 なんて期待しながら待っていると、やがて画面が変わり八十九点と表示された。

 

 まぁ割りと高い方なんじゃないかな?

 

 

「いやぁ、カラオケって楽しいねー」

 

「そうだな」

 

 薫が清々しく呟き、俺はそれに同調する。

 

 周りを気にすることなく思う存分歌えるってのは、想像以上に気持ちいいものだ。

 

「それにしても、薫も上手かったじゃないか」

 

「えへへ~、ありがと♪」

 

 頭を撫でてやると、薫は気恥ずかしそうにはにかみながらギューッと抱き付いてきた。

 

 夏用の制服だからいつも以上に感触が生々しくて、少し鼓動が速くなる。

 

 

「慧君、いい加減にしたらどうかしら?」

 

 薫とイチャイチャしていると、不意に九条院先輩からそんなことを言われた。

 

「薫さんにばかり構ってから、もっとわたしたちにも構いなさいっ!」

 

 ビシッと指を差してくる九条院先輩。それに鳴美と一之瀬さんが「そーだそーだ」と同調する。

 

 まったく、なにを言ってるんだか……。

 

 そう呆れていると、なにか思い付いたのか「そうだわ」と九条院先輩が手を叩いた。正直嫌な予感しかしない。

 


「慧君、わたしと歌の点数で勝負しなさい。わたしが勝ったらご褒美をもらうわっ!」

 

 

 ビシィッと指を差して、九条院先輩は自身の髪を掻き上げた。

 

 さも名案のように言っているが、俺にとってメリットがなさすぎる。

 

 断る。そう口を開こうとしたところで、

 

「私もしたい!」

 

「私も参加します」

 

「お前らなぁ……」

 

 鳴美と一之瀬さんが手を挙げて、賛同の意を示す。

 

 ホント、三人集まったらめんどくささが十倍くらいになるよな。

 

 俺はため息を吐き、改めて断ろうと口を開き──、

 

「お兄ちゃん、私もやりたい!」

 

 まさかの参戦に、俺は一瞬言葉を失った。

 

 薫が入ってくるとなると、俺は断れなくなってしまう。

 

 俺は「仕方ないな」とため息を溢し、渋々了承するのであった。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 一旦休憩を挟み、俺は曲を入れてマイクを取る。

 

 薫には悪いが、今回は本気でいかせてもらう。鳴美たちに勝たせるわけにはいかないのだ。

 

 俺が今回入れたのは、持ち曲の中でも特別得意な曲で、過去に百点を取ったこともある。

 

 聞き慣れた前奏でリズムを取り、俺は歌い出した。

 

 

 ──約四分の曲を終え、俺はマイクをテーブルに置く。

 

 薫たちの拍手に包まれながら見た点数は九十二。惜しくも百点には届かなかったが、充分だと思う。

 

「わー、お兄ちゃん凄いねっ」

 

「そうだろ? 薫には悪いが、今回は負けられないからな」

 

 そう言うと薫は「ふぅん」と含みのある笑みを浮かべマイクを取った。

 

 どういうことだろうと首を傾げながら、俺は静かに薫の熱唱に聞き入る。そして──、

 

 

「ぶいー」

 

 薫は余裕の笑みと共にブイサインを作り自慢してくる。

 

 表示された点数はまさかの九十七、五点も越されてしまった。

 

「ふふっ、これでお兄ちゃんのご褒美は確定だね♪」

 

「あ、あぁ、そうだな」

 

 俺は頷いて、はにかむ薫の頭を撫でる。

 

 これは、意外な展開になるかもしれない。そんな嫌な予感が脳裏を過った。

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