第55話 制服でカラオケ 1

 午前で終業式を終えた俺たちは、かおるの要望通りカラオケに来ていた。

 

 普段からカラオケに行くなんてないため、少しだけ心が踊る。

 

 

 案内された部屋は五人で少し余裕があるくらいの広さで、俺と薫が隣同士で、正面には鳴美なるみ九条院くじょういん先輩、一之瀬いちのせさんが座ることとなった。まぁ俺が決めたんだけど。

 

 前三人は若干不満そうだが、気にしたことじゃない。だから俺はそれを無視して、デンモクを取って薫に尋ねる。

 

「薫はなにが歌いたい?」

 

「うーんっとね……」

 

 薫は頬に指を当て体をくねらせる。なんだこの可愛い仕草は。

 

 そう和んでいると、前方からなにやら視線を感じる。そちらに目を向けてみると、三人がジト目で俺を見ながら小声でヒソヒソ話をしていた。

 

 言いたいことがあるならちゃんと言ってくればいいのに。そう思いながら薫へと視線を戻す。

 

「決まったか?」

 

「うぅん……先にお兄ちゃんが歌って?」

 

 もう一度尋ねてみると、薫は唸った挙げ句そう首を傾げながらデンモクを渡してきた。

 

 俺は「わかった」と返し、速やかに曲を入れる。

 

けい先輩、なんの曲入れたんですか?」

 

「見ればわかるさ」

 

 サイドテールを揺らす後輩にそう答えマイクを手に取る。

 

 皆の視線が集まるなか、液晶画面には曲名が表示され前奏が流れ出す。

 

 歌詞が表示されると同時に俺はゆっくりと息を吸い──、

 

 

 二番を終え間奏に入ったところで、一之瀬さんが手を挙げてきた。

 

「先輩、これっていも○えのオープニングですよね」

 

「あぁそうだぞ、よくわかったな」

 

「見てましたから」と一之瀬さんは胸を張り、「でも凄いですね」と微笑み掛けてくる。

 

「とても上手です」

 

「そうか」

 

 なんて会話をしているうちに間奏が終わり、俺は再びマイクに向かって歌い出す。

 

 

 最後も間違えずに歌いきり、遊び半分でオンにした採点モードが仕事をしだす。表示された点数は八十七となんとも言えなかった。

 

「お兄ちゃん上手いねー♪」

 

「そうか? ありがとな」

 

 素直に褒めてくる薫に、俺は嬉しくてつい頭を撫でる。

 

 薫は気持ち良さそうに「んふぅ~♪」と声を漏らす。

 

「じゃあ次は薫が歌ってみるか?」

 

「うーん、まだ決まらないからあとでいいや」

 

 薫がそう言うので、俺は渋々三人にデンモクを渡す。

 

「じゃあ好きなさ曲でも歌っててくれ」

 

「けーくん私たちの対応冷たすぎないかな!?」

 

「そうね、慧君はわたしたちに冷たすぎるわ」

 

「もっと後輩を大切にするべきです」

 

 鳴美が声を荒らげ、先輩と後輩がそれに同調する。女三人寄ればかしましいとはまさにこのことだ。

 

 俺は三人を無視して寄り掛かってくる薫の頭を優しく撫でる。

 

「にへへっ、カラオケっていいところだね♪」

 

 そうおかしく笑う薫に、俺も釣られて笑みを溢す。

 

「そうだな、また来ような」

 

「うんっ♪」

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 さて、あれから鳴美、九条院先輩、一之瀬さんと順当に歌っていき、薫を除いて一週した。

 

 俺は返ってきたデンモクを薫に渡しながら、「なにか歌いたい曲はないか?」と尋ねる。

 

「えっとね、お兄ちゃんとデュエットしたいなっ」

 

 デンモクを操作して、薫はそんなことを言い出した。

 

 なるほど、デュエットか。

 

 俺は快く引き受け、「どんな曲を歌うんだ?」と続けて尋ねる。

 

 薫が見せてきたのは俺も知ってる割りとメジャーなアニソンで、どうにか歌えそうだった。

 

「よし、じゃあ歌おうか」

 

「うんっ」

 

 すぐさま曲を入れマイクを手に取り、前奏をBGMに心を整える。

 

 せっかくの薫とのデュエットだ、音を外したりしないよう気を付けながら楽しもう。

 

 そう意気込んでいると、ふとマイクを持ってない方の手が握られた。

 

「薫?」

 

「この方が楽しく一緒に歌えると思って」

 

「だめ?」と首を傾げる薫に俺は「全然いいぞ」と答え、薫の手を握り返す。

 

「ふふっ」と薫が笑みを溢し、流れるように画面へと目を向ける。

 

 少し長めの間奏も終わり歌詞が表示されると、俺と薫はピッタリと息を合わせて歌い出した。

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