第54話 終業式も終わって
一学期の終業式といえば、誰もが歓喜する騒々しい日だろう。
なぜか暑い体育館に全校生徒が集められ、教員だけ扇風機から送られる風に煽られるという理不尽を見せつけられ、加えて校長先生の話は異様に長い。
教室に戻れば担任から忠告を受け、終礼が終わればいざパーリナイ。教室のあちらこちらでグループに別れ「このあとカラオケ行こうぜ」だの「夏休みはどこに行く?」だの話し合っている。
まったく、二ヶ月くらいの長期休暇にそこまで浮かれるなんて、こいつらもまだまだ子供だな。というか山ほどある課題を忘れてるんじゃなかろうか。
クラスメイトのうち何人が最終日に地獄を見るのだろうか、なんか若干わくわくしてきた。
「
「満面の笑み浮かべてるお前には言われたくねぇよ」
クラスメイトを観察していると、いつも通りやって来たのはオタ友の
「またまたー、その冗談はつまらないでござるよ?」
「じゃあ今からアンケート録るか?」
「勘弁してください……」
大和は驚くほど素早く土下座をする。どうやら自覚はあるらしい。
「話を戻しますが、慧殿はこの夏期休暇のご予定は?」
「まぁ少し埋まってるかな程度だ」
「なるほど。……ならコミケの日は大丈夫ですかの?」
「まぁ、一日くらいなら大丈夫かな」
そう答えると大和は目を大きく開き、「では一緒に行きましょうぞ!」と顔を近付けてきた。
俺はグイグイくる大和を押し退け「わかったよ」と返す。
「ではそういうことで、
「おう、いってら」
俺はかっこつける友人に手を振って送り出す。
どうせグッズでも買いに行くのだろう。終業式後だというのにお疲れなもんだ。
「けーくんっ」
とそれから少し。大和の次にやって来たのはホクホク顔の
「けーくん、このあと暇?」
「
「そうなのっ!?」
と鳴美は驚き声を上げる。バカでかい声にクラスメイトたちが何事かとこちらを向いてくるが、鳴美が「なんでもないよぉ」と誤魔化した。
まぁそんな予定はないのだが。
「じゃ、じゃあ今日は一緒に帰れないね……」
しゅんとなり鳴美は寂しそうに表情を曇らせる。
あぁもう、めんどくさい。
こいつをどうしてやろうかと考えていると、ふとスマホから着信音が鳴った。
どうやら鳴美の方にも着信があったようで、同じタイミングでスマホを取り出す。
送信者は薫で、簡潔に『図書室に来てください』と書かれていた。
確か今日は開かないはずだが……。なんとなく悪寒がする。
「ねぇけーくん、薫ちゃんから図書室に来てって送られてきたけど」
どうやら鳴美も同じ内容らしい。俺はなにかあるなと確信し、鳴美と共に図書室へと向かった。
◇ ◇ ◇
場所変わって図書室。そこには俺と薫と鳴美、そして
先輩も一之瀬さんも薫から呼び出しをされたらしく、ますますもってワケがわからない。
「えー、こほん。集まってもらいありがとうございます」
やや重たい空気を払うように咳払いをして、薫が業務的な挨拶を始めた。
そんなことをする薫も可愛いのだが、今はここに集められた理由が知りたかったので薫には挨拶を省略してもらう。
「それで薫、なんで俺たちを呼んだんだ?」
「それはね…………このあとの予定を決めたいからです!」
そう高らかに宣言した薫に、俺と鳴美が拍手を送る。
九条院先輩と一之瀬さんはポカンとしているが、いいから早く拍手していただきたい。
「薫、どこに行きたいんだ?」
「えっとね、クラスメイトが皆でカラオケ行くって言ってから、私もカラオケに行きたい!」
「もちろんお兄ちゃんと一緒にね♪」と微笑む薫が可愛すぎで尊い。
「それいいわね、早く行きましょうか」
薫の尊さに涙流していると、九条院先輩が薫に賛同しそんなことを言い出した。
「なんで先輩たちもついて来ようとしてるんですか?」
そう尋ねると、三人が揃ってダメなの? とでも言わんばかりに首を傾げた。
「どうする?」と薫に意見を促してみると、薫は「鳴美ちゃんなら……」と溢す。
「そっ、そんなっ、酷いじゃないっ」
「薫さん、期待させて落とすなんて非道にもほどがありますよ」
「えー? でもぉ……」
薫は悩む素振りを見せ、かと思うと「仕方ないなぁ」と苦笑を浮かべた。
「どうしてもっていうなら、ちゃんと誠意を見せてね?」
薫は笑顔でそう言い、二人をジッと見つめる。
最初に膝を突いたのは九条院先輩だった。
「お願いするわ妹さん……いえ、薫さん。わたしもカラオケに連れてってくれないかしら」
あのお嬢様の九条院先輩が、こうも素直に頭を下げるとは。
意外すぎて唖然としていると、続いて一之瀬さんも悔しそうに頭を下げた。
「わっ、私もお願いします……」
「もぉ、仕方ないなぁ。連れてってあげるよ」
薫は渋々とした態度で了承すると、こちらを向いておもむろに抱き付いてきた。
薫は甘えるように、腕に頬擦りをしてくる。
あぁもう、薫はホント可愛いなぁっ。
薫の可愛さに悶えていると、薫は上目遣いで俺を見上げ、太陽よりも眩しい笑みを浮かべた。
「じゃあ行こっか、お兄ちゃん♪」
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