第52話 薫の反省
裏目に出てしまった、そう私は後悔する。
ここ最近お兄ちゃんの周りにはいつもいつも
別にお兄ちゃんが誰と仲良くしようと、私はなにも言わない。けど、あの二人は例外。
だってあの二人は、絶対にお兄ちゃんのことが好きだから。
思い返すのはうちで勉強会をしたとき。今まで屋上で会っていたときも感じていたけど、勉強会のときはいつも以上に本音が露になっていた。
あれだけ恋心溢れさせていたのに気付かないなんて、本当にお兄ちゃんは困ったくらい鈍感だよ。
無意識のうちにため息を吐き、改めてノートに目を向ける。
少し考えすぎていて、まだ数分前に書いた『反省』の文字しか書かれていない。
そうだ、しっかりと反省しなきゃ。
私はペンを握り、ここ最近の出来事を書き記していく。
まずはデートの終わり、あの公園で至福の時間を過ごしたこと。
えへへ、お兄ちゃんにキスしてもらっちゃった。……おでこだけど。
トリップするのに、すぐに現実に引き返されてしまった。
「やっぱり、キスは唇にしてほしかったな……」
自分の唇を触りながらそう呟くと、あっという間に顔が熱くなってきた。
もぅっ、だから反省をするんでしょ!?
少し無心になって心を落ち着かせる。
「ふぅ、早くしないと夕飯の時間になっちゃう」
私はノートに目を落とし、デートの続きから再開する。
あの日の夜、私は牽制の意を込めてデートの一部始終を二人に教えた。私とお兄ちゃんの仲には、二人が入る隙間はないってわからせるために。
「……はぁ」
またため息が出た。
ここからは月曜日の話に変わる。書こうとすれば、一層億劫になってしまうけど、ちゃんと反省しなければ次に活かせない。
だがら仕方なく、私は月曜日──昨日のことを思い返す。
用事が終わった私は、すぐにお兄ちゃんに連絡した。けれど数分が経っても返信どころか既読も付かなくて、私は不安になりながらお兄ちゃんの教室に向かった。
そこで教えられたのは、しばらく前にお兄ちゃんが九条院先輩に拐われたという情報。
私はすぐに二人を探しに出た。といっても、闇雲に探して時間を潰してはお兄ちゃん(の貞操)が危ないため、どこならいるだろうと今までにないくらい頭を働かせた。
そこで思い付いたのは図書室。九条院先輩は半ば図書室の主みたいに扱われているから、可能性は高いと思った。
念のため職員室に鍵を取りに行って、いざ図書室に行ってみると案の定扉には鍵が掛けられていた。そこで私はここに二人がいると確信し、お兄ちゃん(の貞操)を守るために突入して──、
「はぁ」
ため息が絶えない。
あの光景を思い返すだけで胸が痛む。
でも反省しなければとペンを滑らせる。
私が見たのは、床に倒れているお兄ちゃんに半裸になって馬乗りしていた九条院先輩。
事案一歩手前の光景に、私は一瞬我を忘れていた気がする。
そのあとは九条院先輩をお説教して、家に帰ったらお兄ちゃんもお説教した。
本当に、ほんっとうに不満しかないけど、お兄ちゃん(の貞操)が無事で私は安心した。だから、お説教も少し優しくしたのだ。
昨日のことを綴り終え、私は少し休憩を挟む。
うぅ、いくら反省のためとはいえ辛すぎるよぉ……。
お兄ちゃんに甘えたいという衝動が溢れてくるけど、少しだけ我慢。反省が終わったら思う存分甘える。
私は深呼吸して気を引き締め、ノートに向き合う。
今から書くのは今日のこと。帰り道にお兄ちゃんが話してくれたことだ。
次に動きを見せたのは氷雨ちゃんだった。氷雨ちゃんは九条院先輩みたいに既成事実を作りにいったわけじゃなくて、どうやら昔話をしたみたい。
内容は、受験のときに氷雨ちゃんがお兄ちゃんに助けてもらったということ。どうしてこのタイミングでそんな話をしてきたか、お兄ちゃんは鈍感だからわからないと思う。
まったく、氷雨ちゃんもズルい方法を取ってくる。
九条院先輩のようにいきなり襲いに掛かればお兄ちゃんが警戒するのは当然だし、好感度だって急降下する。だから氷雨ちゃんは自分との縁を語って、助けてもらったと感謝したのだ。
感謝されて嫌な人はほとんどいないと思う。お兄ちゃんも例には漏れず、なんだか気恥ずかしそうに話してくれた。
あの、私以外に興味を示さないお兄ちゃんが、だ。
氷雨ちゃん、要注意だよ。
赤いボールペンで大きくそう書き、お兄ちゃんから聞いた話を更に思い返す。
その後氷雨ちゃんはお兄ちゃんと仲良く話して……最後にお兄ちゃんの首を噛んだらしい。
まったく、うらやま……違った、けしからん子だよ。
これでお兄ちゃんと氷雨ちゃんの話は終わり。なんやかんやノート一ページまるまる使っちゃった。
私は息を吐いて考える。
二人のこの行動、私が牽制したからだよね……。
お兄ちゃんから離れさせようとしたのに、結果二人は今まで以上に大胆な行動に出てきた。
「もう、二人には困ったものだよ」
そんな言葉を言ってみて、ふと時計に目を向ける。気付けばいつもなら夕食を作り始めている時間になっており、私はノートを閉じて急いで部屋を出た。
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