第48話 薫とデートのフィナーレ

 ランジェリーショップでかおるの下着を購入し、その後は何事もなく平和なデートをしていた。

 

 薫のテンションが上がりまくって腕に抱きついてきているが、歩きづらいこと以外は特になにもない。(というか嬉しい)

 

 だが悲しきかな。楽しい時間とはあっという間に過ぎていくもので、気付けば時刻は四時半を回っていた。明日も休日だが、そろそろ帰らねばならない時間だ。

 

 そのことを薫に告げると、薫は少し寂しそうに表情を曇らせ「じゃあ帰ろっか」と弱々しい笑みを浮かべた。

 

 くっ、もう少し時間があれば……っ。

 

 どうにか口実を作ってデートを続けられないだろうかと模索していると、薫が「最後に行きたいところがあるの」と呟いた。

 

「どこだ?」

 

「えっとね、ちょっと歩くけどいい?」

 

「もちろんだ」

 

 そう強く頷くと、薫は笑顔を浮かべて「じゃあ行こっ♪」と俺の腕を強く引っ張ってくる。

 

 そんなに慌てなくてもいいのに。そう苦笑しながら、俺は薫に案内されるまま街道を進んだ。

 

 

 駅付近の繁華街から離れ、やって来たのはちょっとした山の頂上に作られていた公園。傾いた日と相まってとても美しい風景になっている。

 

「ここは?」

 

「えっとね、デートスポット的な公園?」

 

 そう言いながら薫は可愛らしく首を傾げる。

 

 どうして疑問系なのか。

 

「この前友達から聞いたの、ここの公園にデートしにきたカップルは末永く一緒にいられるって」

 

「縁結び……とは違うか。なかなか面白いな」

 

「だが俺たちはカップルじゃないだろ?」と尋ねると、薫は「兄妹はカップルよりも強いんだよぉっ!」と頬を膨らませた。

 

「つまり上位互換だよ上位互換。兄妹はー、恋人のー、じょーいごかんー」

 

 挙げ句薫はそんな歌まで作りだして、手を伸ばし公園内を歩き回りながらその歌を繰り返す。

 

 まったく、可愛いな。

 

 俺はそんな薫の姿に頬が緩むのを感じる。

 

「だからね、お兄ちゃんと末永く一緒にいたいからここに来たの」

 

「ダメだった?」と不安そうに薫が首を傾げるもんで、俺はすぐに駆け寄って薫を抱き締める。

 

「おっ、おおおお兄ちゃんっ!?」

 

「約束するよ、薫が家を出ていくまで俺と薫はずっと一緒だ」

 

 慌てる薫の頭を撫でながら俺は誓う。すると薫は「ふへへぇ♪」と笑みを溢しギュッと抱き返してきた。

 

「ありがと、おにーちゃん♪」

 

「どういたしまして」

 

「今日は楽しかったよ」

 

「俺もだ」

 

「えへへっ」

 

 薫ははにかんで、「またデートしようね」と口にしながら顔を埋めてくる。

 

 俺はそんな薫の頭を撫でながら天を仰いだ。

 

 嗚呼、神よ……薫が可愛すぎてシスコン卒業できる自信がありません。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 どれだけそうしていただろうか。気付けば日は来たときよりも沈んでいて、朱に染まった空は反対側に現れてきた夜空と綺麗なグラデーションを成している。

 

 なんてロマンチックな状況だろう。まるでラブコメのワンシーンのようだ。

 

 そんなことを考えていると、ふと薫が体を離し、ゆっくりと俺を見上げてきた。

 

 俺を見つめる瞳は潤んでいて、どこか切なげだ。

 

 おいおいおいっ、なんだこれ!? なんかすっげぇいい雰囲気なんですけどぉ!? なに妹といい雰囲気になってんだ俺ぇぇぇえええっ!?

 

「お兄ちゃん……」

 

 ポツリと呟く薫は、口を小さく開いて流れに身を委ねるように目を閉じる。アレだ、光景が完全にアレになっている。

 

 いやいやいや、だからダメだろ俺っ。さすがにそれは兄としてやっちゃいけないだろっ!

 

 俺は何度か深呼吸を繰り返し、薫の頬に手を添える。

  

 瑞々しい唇を親指で撫でてやると、薫は「んっ」と声を漏らした。

 

 これが妹でなければとても青春を謳歌している若者の図なのだが、残念なことに薫は妹だ。だから俺はそれをすることはできない。

 

 けど、少しだけ薫の期待に応えよう。

 

 俺は空いている左手で薫の前髪を掻き上げ、晒された額に軽くキスをした。

 

「お兄ちゃん……」

 

「はいはい、もう帰るぞ薫」

 

 そう言うと薫は慌てて「うんっ」と頷いた。

 

 

「ありがとね、お兄ちゃん」

 

「おう」

 

「……ありがとね」

 

「おう」

 

 そんなちぐはぐした会話を交わしながら降りる階段は、やけに長く感じられた。

 

 当然だが、帰宅しても薫の態度がしおらしかったことは言うまでもない。

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