第47話 薫とデートとランジェリー!?

 例のワンピースを仕舞い、改めて二人で服選びを再開した。

 

 この店以外にまだ行っていないのだから、他の店で探せばいいのではないか。そうも考えたのだが、薫の迫力に言い出せそうになくこの店で服選びを続けている。

 

 せめてもと薫には俺が見付け出した物から選んでもらっている。面白半分で先程のようなワンピースを選ばれては堪ったものではないから。

 

 

 俺が探し、かおるが選ぶ。それの繰り返しをしばらく。

 

「おっ、これなんていいんじゃないのか?」

 

 俺が偶然見つけたのは、濃い藍色のオープンショルダーのブラウス。肘を隠す程度のフレアスリーブに、裾近くは灰掛かった水色の幾何学模様が描かれている。

 

 加えて襟に沿って白いフリルがあしらわれており、V字箇所にネオンカラーの青いリボンがつけられている。腰辺りには大きな蝶リボンがあり、これまたなかなか見掛けないようなデザインだ。

 

 薫はしらばらく唸りながら服をまじまじと見つめる。その最中、俺は冷や汗が止まらなかった。

 

 これで薫が首を横に振ったなら、これ以上のものを見付けられる自信がない。

 

 そうヒヤヒヤしていると、薫はおもむろに頷き「いいねー」と呑気に言った。

 

「そ、そうか?」

 

「うんっ、気に入ったよ♪」

 

「そうか、それならよかった」

 

 そう安堵していると、薫は「じゃあ次はこれに合うボトムスかスカートだね」と微笑んできた。

 

 ぐっ、予想はしていたが……俺にできるか?

 

 勉強や運動ならともかく、俺はファッションだけには自信がない。今のブラウスを見付け出すのにも苦労したのに、それに合うスカートかボトムスを選ぶとなると、更に苦戦を強いられることとなるだろう。

 

 だが、お兄ちゃんにはやらねばならないときがある。

 

「よし、俺に任せろ!」

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 ──と意気込んで一時間。

 

「だぁぁぁっ」

 

 ベンチに腰掛け、俺は体の力を抜くように息を吐く。

 

 あれから店で探し続け一時間。俺はなんとか上手く合いそうなスカートを見付け出すことができた。今は薫が試着して確かめているところだ。

 

 さて、どうだろうか。あれがダメなら本当に厳しくなるが……。

 

 少しだけ不安を感じていると、試着室のカーテンが勢いよく開かれた。

 

 

「お兄ちゃん、どうかな?」

 

 髪をくるくると弄りながら、薫は恥じらうように尋ねてくる。

 

 薫は着て来ていた服を脱ぎ、俺が選んだブラウスとスカートを身に付けている。ブラウスは先程説明した通りの物で、それに合わせたスカートはシフォン生地のスカート。下の方には大きくバラが描かれており、またやや光沢がありキラキラしていて幻想的だ。

 

 まぁデザインはいいのだが、シフォン生地のため中が多少透けてしまう。なのでプラスでホットパンツを組み合わせている。これで下着が見られるようなことはない。

 

 

「おう、めっちゃ可愛いぞ」

 

「えへへ、ありがとっ♪」

 

 薫は嬉しそうにはにかみ、「これにするっ」とご機嫌に言った。

 

「じゃあ早く脱いでくれ」

 

「やだお兄ちゃん、こんなところで脱げだなんて大胆……」

 

「違うからな!? 買ってくるから脱いでくれってことだっ」

 

 変なことを言い出す薫に、俺は慌ててそう訂正を入れる。

 

 まったく、ここには他にもお客がいるのに勘弁してくれ……。

 

 そう頭を抱えていると、薫は「冗談だよぉ」と笑いカーテンを閉めた。

 

 薫はホントお茶目な性格だな。まぁそこが可愛いのだが。

 

 そう頷いていると、周りから変な目で見られた。なぜだ。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 ブラウスとスカート、ホットパンツの三点を買ってしばらく休憩を挟み、俺たちは楽しくモール内を回った。

 

 ときにはアクセサリー店でネックレスやブレスレットなどを見たり、他の店で服を物色したりとても楽しい時間を過ごした。途中昼時になりモールを出て近くのレストランで昼食を摂り、またモールで服を見て回って午後三時。

 

 俺は薫に導かれるままモール内を進んでいた。薫がどうしてもとお願いしてくるので、俺はただ付いていくのみ。

 

 薫が行きたい店とはどこなのか。その答えはエスカレーターを上がった五階ですぐに出た。

 

 その店に並ぶマネキンにはほとんど露出していて、飾られてあるのも凝ったデザインのモノからシンプルなモノと幅広い。やけに華やかなその店に、薫は俺を連れ込もうとする。

 

 俺はなんとか店の前で踏み留まり、俺の腕を強く引っ張る薫に尋ねた。

 

 

「薫、ここはなんだ?」

 

「んぅ? ランジェリーショップだよ?」

 

 さも当然のことのように答える薫に、俺はため息を溢す。

 

「念のために訊いておくけど、まさか俺に下着を選ばせるつもりじゃないよね?」

 

 そう尋ねると薫は「まっさかぁ」と頬を赤らめた。

 

「よかった、そうだよな。さすがに選ばせるなんて──」

 

「ただ見てほしいだけだよ」

 

「待て」

 

 安心かと思いきや、まさかの爆弾。

 

 つまりは下着姿を見てほしいということだ。いくらなんでも無茶がすぎる。

 

 これはさすがに断ろう。そう俺は薫に向き合い──、

 

「お願い、お兄ちゃん。……お兄ちゃんに見てほしいの」

 

「グハッ……!?」

 

 瞳を潤ませ上目遣いで首を傾げる薫の破壊力に、俺は思わず膝を突いた。

 

 くっ、断れない……っ!

 

 俺はこの日ほど自らのシスコンを恨んだ日はないだろう。

 

 

 時は少し進んでランジェリーショップの中。俺は服屋同様に試着室の前で待たされていた。

 

 くっ、周りの視線が気になるっ。

 

 先程から薫を待っている間、他のお客にジロジロと見られているのだ。

 

 視線から然程悪意は感じられないが……なんだろう、微笑ましいものを見るような目で見られている気がする。

 

 頼むっ、早く終わってくれ。

 

 そう祈っていると、まるで天に祈りが通じたように試着室のカーテンが開かれた。

 

 そこに立っていたのは、きめ細かな白い柔肌を多く露出した、下着姿の薫。下着は妖艶な雰囲気を醸し出す深紫色で、黒いラインがいくつも巡らされている。

 

 というか、端的にいってヤバい。具体的には言わないが、ヤバい。

 

「どう? お兄ちゃん、可愛いかな?」

 

「お、おう、可愛いと思うぞ」

 

 まぁ可愛いというより大人っぽいけど。そう聞こえないように付け加える。薫は聞こえていないようで、「そっかぁ」と嬉しそうに胸を撫で下ろしていた。

 

「なぁ薫、もういいんじゃないか? ほしいなら俺が買うから」

 

「うん、わかった♪」

 

 薫は元気に頷くとカーテンを閉めた。中から鼻歌が聞こえてきている辺り、とても嬉しいようだ。

 

 俺は誰にも気付かれないよう、小さく息を吐く。

 


「頑張ってね、彼氏さんっ」

 

 

「はっ!?」

 

 すると突然、言葉を掛けられ俺は振り向くがそこには誰もいなく。

 

 結局なんだったのだろうか。

 

 

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