第45話 薫をデートに誘ってみる

 土曜日の午前八時頃。ちょうど朝食を食べ終わった辺りで、俺は意を決してかおるに話し掛けた。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

 可愛らしく首を傾げる妹が可愛い。

 

 いや、それどころではなく。

 

「薫、ご褒美のことなんだが」

 

「うんっ。なにか決まったの?」

 

 俺が「あぁ」と返すと薫は嬉しそうに微笑んだ。どことなくそわそわしている気がする。

 

 そんなに楽しみにされると言い出しにくいな……。

 

 俺の考えたご褒美になんら自信があるわけではないし、どちらかというなら俺がしたいことのような気もするし。まぁつまり、自信がないものにそこまで期待ても困ってしまうということだ。

 

 言い淀んで言いると、薫が顔を覗き込んできて「どうしたの?」と心配してくれる。優しい、というか近い。

 

 俺は「なんでもない」と返し、咳払いをして気を改める。

 


「なぁ薫、ご褒美にデートしないか?」

 

「ふぇっ?」

 

 思い切ってそう言うと、薫は驚いたのかおかしな声を漏らして固まった。

 

 だ、大丈夫だろうか。

 

 そう心配していると、薫はピクリと震え次の瞬間には「うへへ♪」とだらしない笑みを浮かべだした。

 

「うん、いいよ♪」

 

「そ、そうか。よかった……」

 

 俺はひとまず安堵の息を吐く。

 

「よしじゃあ、九時からでいいか?」

 

「うんっ、目一杯お洒落するね♪」

 

 そう宣言しビシッと指を差してくると、薫は急ぎ足でリビングを出ていった。

 

 ふむ、楽しみだな。

 

 俺は胸を踊らせながら、自室へと戻った。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 それからしばらく。俺は時間まで部屋でデートに来ていく服を選び約束の時間を待っていた。

 

 気晴らしに読書をしながら、待つことどのくらいか。物語の世界に耽っていると、不意に扉がノックされた。薫の支度が終わったのだろうか。

 

 本を閉じドアを開けると──天使がいた。

 

 セミロングの藍髪には藤の花が描かれた髪止めがされていて、首にはハート型が抜き取られた白いチョーカーが巻かれている。

 

 薫が身に付けついるのは首元が空いた淡い水色のチュニック。ボトムスは膝上まである丈のホットパンツで、黒ニーソに包まれた肉感のあるふくらはぎはとても魅力的だ。

 

 薫の髪の色に合わされた落ち着いたコーディネートで、それでいて完全に薫の魅力を引き出している。

 

 さすがは薫といったところか。もう凄すぎて言葉が出ない。

 

 や、やばい……可愛すぎる。

 


「お、お兄ちゃん……どう、かな?」

 

 薫の圧倒的な可愛さに立ち呆けていると、薫は髪を指先でくるくると回しながら尋ねてきた。

 

「ほ、ほらっ、感想とかないの?」

 

「べ、べりーきゅーと」

 

 動揺してしまったからか、なぜか英語で答えてしまった。薫は「もぅ」と頬を膨らませてしまう。

 

 そんな薫も可愛いのだが……今は薫の機嫌を直すのが先決だ。

 

「とても可愛いぞ、似合ってる」

 

「う、うん」

 

「もう、なんだ、天使かと思ったぞ」

 

「私はただの人間だよ」

 

 おかしそうに苦笑する薫。どうやらいつもの調子に戻ったようだ。

 

「えっと、お兄ちゃんもかっこいいよ」

 

「お、おう」

 

「えへへ、お兄ちゃん顔赤くなってるよ」

 

「薫がいきなり褒めてくるからだろ……っ」

 

 俺は腕で顔を隠してそう返す。チラッと見てみると、薫はアメジストのような瞳をジッと俺に向けている。

 

 て、照れるな……。

 

 

「よ、よし、行くか」

 

「うん♪」

 

 流れを変えようとそう提案すると、薫は笑顔で頷き自然に腕を組んできた。

 

 突然のことに驚いたが、なんてことない。ただ甘えてきているだけだ。

 

 俺は薫の頭を撫でながら苦笑する。

 

「薫、それだと歩きづらいだろ?」

 

「うーん……じゃあ手を繋ぐくらいはしてもいい?」

 

 可愛らしくお願いしてくる薫に、俺は「もちろん」と快く頷く。

 

 すると薫は体を離すと、今度は指を絡めるようにして手を繋いできた。いわゆる、恋人繋ぎというものだ。

 

「あはは、少し照れるな」

 

「嫌だった?」

 

 覗き込むようにして尋ねてくる薫に「全然」と答え、続ける。

 

「まだ家の中だし、今は繋がなくていいんじゃないか?」

 

「……えへ♪」

 

 ちょっぴり天然な薫も可愛い。

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