第44話 薫とラッキースケベと入浴イベント
水曜日から少し日が経ち、金曜日……の夜。俺はいまだ
薫はご褒美を考えるまでが罰と言ってきた、だから必ず俺が考えてご褒美をあげなければならないのだが……。
難しい……ッ!
俺は自室の床に膝を突き、崩れ落ちる。
昔から薫が頑張ったときに俺がよくご褒美をあげてはいた。(例えば運動会で頑張ったときは膝枕とか)
だが、今となってはもはや日常茶飯事で、特別ご褒美としてしてあげるには手抜きすぎる。
薫は心が広いからそれでも喜んではくれるだろうが、それでは俺が嫌だ。兄として譲れない。
「かといって、なにか良い案があるわけでもないしな……」
そんな呟きがため息と溢れる。
薫は、どんなご褒美がほしいのだろうか。
俺はこの日ほど、普段薫たちがやっている『心を読む』ができたらいいなと思った日はないだろう。
はぁ、読心術入門でも買ってこようかな……。
◇ ◇ ◇
悩むことしばらく。俺は気分転換に風呂へと向かった。
こういうときはただ考え続けるのではなく、息抜きをすることも必要なのだ。
決して逃げているわけではないと自分に言い聞かせながら、どうも降りる階段はいつもより長く感じる。
あぁ……ご褒美が思い付かなすぎてヤバい。なにがヤバいってもう……アレだ、語彙力なくなるくらいヤバい。
残念すぎる自分の思考に呆れながら、俺は重たい体に鞭打ち脱衣所の扉を開ける。
「………………」
「………………」
そこには、謎の液体らしきモノを被った、半裸の妹がいた。
薫は汚れたブラウスを脱ぐ途中で、可愛らしいおへそへのラインまでしっかり見えている。
視線を下ろせば、魅力的なお尻とそれを包む淡い青色の下着が姿を現している。先程まで穿かれていたであろうショートパンツは、洗面器に無造作に置かれていた。
薫は下から脱ぐ派だったのか。と場違いな感想を抱きながら、薫の顔へと視線を戻す。
宝石の如く煌めく瞳はこれでもかというほど開かれて、白い頬は徐々に桜色へと染まっていく。
なぜかこんな状況で俺の脳は逆に冷静で、少しずつ現状を把握し始める。
多分、料理中に事故って汚れてお風呂に入ろうとしたのだろう。そのタイミングで俺が来てしまった、と……。
もう夕食が済んでいるのに料理とはよくわからないが、それが一番最もらしい流れだ。
なんて冷静に考えていると、キュッと結ばれていた口がゆっくりと開きだした。
さぁ、悲鳴はそろそろだ。そう決心をしていると、予想に反して薫の口から漏れたのは「お兄ちゃん、どうしたの?」という言葉。
「あっいや、風呂に入ろうかと思ってな」
「薫の方こそどうしたんだ?」と尋ねると、薫は気恥ずかしそうにはにかみ「ちょっとお菓子作りしてたんだ」と答えた。
お菓子? こんな時間にか? と疑問に思っていると、薫が頬を掻きながら続ける。
「お兄ちゃんが私へのご褒美で悩んでたから、息抜きにお菓子でも食べさせてあげようかなぁって思ってね」
「か、薫ぅ……っ」
妹の優しさが胸に染みる。
「じゃあ、それで事故ったのか?」
「うん、卵を溶いてたらうっかりひっくり返しちゃって」
「えへへ」と苦笑する薫が可愛い。
「そ、そうか。それは悪かったな」
「んぅ? どうしてお兄ちゃんが謝るの?」
「いや、俺のためにお菓子を作ろうとして汚れちゃったわけだし」
「別にいいよー」
「気にしないで」と薫は手を振る。
あぁ、本当に、なんて良い子に育ってくれたんだ……。お兄ちゃんもう涙で前が見えない。
薫の優しさに感動していると、突如なにか思い付いたように「あっ」と薫が声を上げた。
「そうだお兄ちゃん」
「なんだ?」
聞き返すと、薫は少し恥じらうように頬を染めつつ笑顔で──、
「一緒にお風呂入ろっ♪」
そう提案してきた。
◇ ◇ ◇
なんやかんやで、俺は薫と風呂に入っていた。
いや、弁解をさせてほしい。俺は最初断ったのだ。だがなぜか薫が食い下がって、挙げ句の果てには「お兄ちゃんのせいで汚れちゃったのになぁ」と自分の発言を百八十度反転させ、「お風呂入ろ~っ」と駄々を捏ねる始末だ。
ここまでされると断りきれず、なし崩し的に一緒に入浴することとなったのだ。だから俺は悪くない。悪くないったら悪くない。
「別に緊張しなくても、昔は一緒にお風呂入ってたでしょ?」
俺の心を悟ってか、そんな呑気なことを言いながら薫が入ってきた。「それは小学生の頃だろ」と反論しながら振り返り──、
「ぶ……っ!? なんでタオルで隠してないんだよっ」
俺は全力で正面に向き直った。理由は叫んだ通り、薫がタオルで体を隠すことをせずに入ってきたからだ。
それに対し薫は「お風呂は裸で入浴するものだよ?」と返してきた。正論なのだが、もう少し状況を踏まえていただきたい。というか、隠すくらいしてほしい。
まぁ確かに、年頃とはいえ実の兄妹だ。変に意識しなければいいだけのこと。
自分にそう言い聞かせていると、ふと背中一面にしっとりとした柔肌が当てられた。
「お兄ちゃん、体洗って?」
「……」
なぜだろう、可愛い妹の可愛いお願いなのに、絶対に断らせないという圧が掛かっている気がする。
いや、気のせいだろう。きっと薫のいつもの甘えに決まっている。体を洗ってほしい、というのはボケだろう。……多分。
俺は「わかった」と頷き椅子を薫に譲る。入れ替わるとき少しだけ薫の体に目が行ってしまったが、これは仕方ないことだと言い訳したい。
「じゃあ頭から洗うぞ?」
「うんっ、よろしくね♪」
薫のご機嫌な返事を聞き、俺は薫の頭──というか髪を洗いだす。
みるみるうちにシャンプーが泡立ち、良い香りが漂い始める。
さすがは薫のお気に入りシャンプー、すごい良い匂いだ。
「あはは、こうしてるとホントに子供のときみたいだね」
「そうだな、昔はよくこうして洗ってあげたんだったな」
思い出そうとすれば簡単に浮かんでくる当時の記憶を懐かしんでいると、薫はいつもより静かに「ずっとこうしてほしいな」と溢した。
「そうだな、ずっと二人で仲良く過ごしたいな」
「……うん」
昔を思い返していたから、少ししんみりとした雰囲気になってしまった。
「……よし、これくらいでいいかな。薫、流すぞ?」
「うん」
薫が頷くのを確認して、もこもこになった薫の頭にシャワーを流す。泡が髪を伝い、下へ下へと流れ落ちていく。
よし、これで終わりだな。そう立ち上がると、薫が半分振り向いて首を傾げた。
「お兄ちゃん、体は?」
「それは自分で洗いなさい」
まったく、うちの
結局そのあとは、それぞれで体を洗うだけで終わった。「一緒にお湯に浸かろうよ」とか誘われたけど、そっちは全力で遠慮させてもらった。
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