第41話 小テスト当日
波乱の月曜日を越して火曜日、小テスト当日。俺と
いやまぁ、昨日の件に関しては話が付いているから、今更ぎくしゃくする必要もないのだが。
ついでにいえば、俺たちの後ろを少し遅れて
わざわざ各教科の単語帳まで作って。その努力を普段の授業に使ってやれよ。この前数学の
そのときの豊和先生の姿を思い出していると、ふと薫に袖を引っ張られた。
「お兄ちゃん、忘れてないよね?」
「あぁ、薫が今回の小テストで平均八十点取ったらご褒美だよな?」
「うん♪」と元気に頷く薫。周囲の空間までもが輝いて見える。
ぐふぅ……朝から昇天しそうになる可愛さだな。
俺は細やかな抵抗として、薫の頭を撫で回す。
「ひゃぁっ♪ もぉ、なにするのさお兄ちゃんっ」
「いやぁ、薫が可愛くて仕方ないなぁと思って」
素直に答えると、薫は白くきめ細かな頬がみるみるうちに赤くなっていく。
薫はアメジストのような瞳を潤わせ、恥じらうように俯いた。
「お兄ちゃんのばか」
「なっ、なんでだっ!?」
突然の罵倒に声を上げると、薫は「知らないっ」とそっぽを向いてしまった。
ぐぅ、ホントになんでだ……。
結局学校に着くまで俺は薫が罵倒してきた理由を考えたが、なに一つわかることなく薫と別れてしまった。
◇ ◇ ◇
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、午前最後の授業が幕を閉じた。
先生の指示で席の後ろの生徒が順番に解答用紙を回収して先生に渡す。教室のあちらこちらでは「何番がわからなかった!」や「やべぇ赤点取りそう」、「ギリギリかもしれない」などと声が上がる。
お前らもっと頑張れよとも思わなくもないが、人には得手不得手あるものだし、仕方ないのかもしれない。
まぁ俺個人の感想としては、授業をしっかり受けていれば八十は堅いだろう。当然俺は満点だが。
そうテストの余韻に浸っていると、豊和先生が「授業終わるぞー」と気怠げに声を掛ける。心なしか顔が青ざめていて、胃の辺りを押さえているが大丈夫だろうか。
委員長の号令で授業を終え生徒たちが席を立つなか、豊和先生が「
鳴美が泣き叫び、クラスメイトたちが笑い声を上げる。
あいつ、もっとしっかり勉強しとけよ……。そう呆れながら、俺は薫が作ってくれた弁当を片手に教室を出る。お供はいつもの
「
「知っとるわボケ、心を読んで突っ込んでくるな」
伊達眼鏡を光らせる友人の腹に軽く拳を叩き込み、一足先に屋上へと向かう。
後ろから「待っておくれ慧殿ぉ」と気持ち悪い大和の声が聞こえてくるが、そんなのは無視だ。
屋上に着くと、なぜか先に
なんて内心で呟いていると、案の定(?)心を読まれ「酷いわ」と九条院先輩がジト目を向けてくる。
「冗談ですよ、一分くらい」
「それ九割九分本心ってことよね?」
相手をするのが面倒で、「そうですよ」とだけ返し柵を背もたれにするように座る。
「もっと先輩を……未来の奥さんを大事にしたらどうかしら?」
「なぜ言い換えたんですか」
それも悪意たっぷりの言い方に。
「なぜって……昨日のこと忘れたの?」
昨日のことというと、帰り際に渡された婚姻届のことだろうか。
「あれならビリビリに破いて捨てておきましたよ」
「慧君はあれかしら? 鬼畜属性も持ち合わせているのかしら?」
「そんな属性持っていませんよ」
ため息混じりにそう返すと、九条院先輩は「なら、素で鬼畜ということかしら」などと呟く。俺は聞かないことにした。
そんなことをしていると、やや風化した扉が開いた。ようやく大和が追い付いたのかと覗いてみると、やって来たのは俺の友達ではなく、目尻に大粒の涙を浮かべた
まぁ俺には関係ないが。
「慧先輩が深く関わりまくりですよ」
「だから心読むと止めてくんない?」
なんて返しながら、大方予想が付いた。多分薫に言葉責めでもされたのだろう。
少しだけ気の毒に思った俺は、「ご愁傷様」とだけ言葉を掛けた。
「兄妹揃って酷い人たちですね……っ」
労ってあげたのに、なぜか一之瀬さんから返ってきたのはそんな罵倒。本当になぜだ。
後輩の理不尽さに嘆いていると、またもや扉がオープン。今度こそ大和だと目を向けると、
「おにーちゃん♪」
「薫と──薫のブレンズじゃないか」
来たのはオタ友の大和ではなく、愛する妹とその友達。ごめん、友達の方は名前忘れた。
「お兄ちゃん、一緒に食べてもいい?」
可愛らしく首を傾げる薫に、俺は「勿論」と返す。当たり前だろ、愛する妹のお願いは絶対だからな。
そうドヤッていると、辺りの約四名がため息を吐いた気がした。
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