第36話 先輩と後輩の戦い?
時刻は五時半。もうそろそろ帰ってもらいたいものだが、誰も帰る素振りを見せず、典型的なガリ勉を彷彿とさせる勢いで勉強をしている。
そんなに明日の小テストを落としたくないのだろうか。
というか、そんなに焦るなら普段からもっと勉強しとけよ、とは思う。
「それで
「どうして名指しなのかしら、
取り敢えずと尋ねてみると、九条院先輩に質問を返された。
いや、どうしてって訊かれても。
「先輩が成績優秀だってことは知ってますし、小テストくらい前日に焦る必要はないですよね?」
としっかり質問に答えると、九条院先輩は「うっ」と声を漏らしサーッと視線を逸らした。
「よし、帰ってください」
「ひ、酷くないかしら!? それなら私わからないですアピールしてる
「なに言ってるんですか」
九条院先輩にビシッと指された一之瀬さんは、呆れたような面持ちでため息を吐いた。
先輩の耳を引っ張ってなにか言っているようだが、そっちはなにも聞こえない。
いやまぁ、教えられるときの態度から本当は勉強できるってことはわかっていた。
確かに先輩を追い出すなら一緒に追い出すべきなのかもしれない。
そうと決まれば、と俺は
今もまだ小テーブルで薫に勉強を教えてもらっている。どうやらあちらは本当にヤバい組のようだ。
あっちは
俺は薫たちから目を逸らし、正面の鳴美に目を向ける。
つい先程「少し休憩~」と言って机に伏せている。帰ればいいのに。
全体の状況を確認してしばし思案する。
「ふむ……
そう尋ねると、二人は手を止めコクリと頷く。
そうか、近いのか。
また少し考え、出た答えは──、
「九条院先輩、一之瀬さん、送るんで帰りましょう」
そう提案すると二人は「えー」と不満げに声を揃えた。
「というか、あの二人がよくてどうして私はダメなんですか?」
「私も結構家近いのに」と溢す一之瀬さん。そう言われ俺は少しばかり記憶を遡る。
あれは確か旧校舎に呼び出されたときのことだったか。
「確かに近いが──」
そう口に出した途端、鳴美、九条院先輩がバッと俺に視線を移してきた。
「そういえばお兄ちゃんは一之瀬さんの家に行ったことあるんだったね」
やけに刺々しい口調でそう言う薫に、俺は「違う」と否定する。
「あくまで家に送っただけだ、上がってないし上がる気もない」
「そこまで言われると私でも傷付きます」
不満げに唇を尖らせ、一之瀬さんはため息を溢す。
「仕方ないです。ここで駄々を捏ねて慧先輩に嫌われたくありませんので、今日は素直に帰りますよ」
テキパキと机に広げていた教材を鞄に仕舞い、一之瀬さんは正面にいる九条院先輩に目を向ける。
「まぁ精々、九条院先輩は駄々を捏ねて先輩に嫌われてください」
一之瀬さんの挑発するようなセリフに九条院先輩は眉をひそめるが、やがてため息を吐き自らの荷物を片付け始めた。
珍しい、あの傍若無人でお嬢様気質の先輩が素直に言うことを聞くなんて。
そう感心していると、あっという間に二人は荷物を整え終わり席を立つ。
「それじゃあお言葉に甘えて、家まで送ってもらおうかしら?」
「お願いします、慧先輩」
この二人が素直になるとは、正直意外すぎる。
そう驚きつつ、俺は薫に「行ってくる」と伝え二人と共に家を出た。
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