第29話 推理と作戦
落ち着いてしばらく。俺はどう現状を切り抜けようかと模索していた。
多分だが、俺がそんな事実はないと言っても大半は聞き入れてくれないだろう。クラスメイトならわかってもらえそうだが、それ以外の人は俺の言葉よりも面白そうな噂を信じるに違いない。
ふむ……マジでどうしよう。
「どうやら、さすがの
俺が真面目に悩んでいると、
他人面してるけど、先輩も当事者の内の一人だろ。
そんな突っ込みを入れておいて、俺は改めて考え──、
「慧先輩」
ようとしたところで、
「私たちがそんな事実はないって言えば解決するんじゃないですか?」
「……」
確かに。そう納得しながら、その発想に至らなかった自分が恥ずかしくなってきた。
あまりのこととはいえ、ここまで冷静さを欠くとは……反省しなければ。
「よし、じゃあ二人とも──」
「待つでござる」
お願いしますという言葉が遮られる。
遮ったのは、今の今まで空気だった俺の付添人の
突然の発言に二人は驚き目を見開いた。というか、一之瀬さんに至っては『誰この人』みたいな顔をしてる。
「待つでござるよ慧殿」
「なんだよ大和、問題とかはないと思うが?」
「確かに、疑惑のある四人がそう証言すれば疑いも晴れるであろう。だが、そのあとはどうするでござる?」
「そのあとって」
「どういうことだ?」と大和に聞き返す。どうやら俺はまだ冷静になっていないようだ。
「噂を聞いただけの者であれば、四人が否定すればそれで済むであろう。だが、噂を流した本人がそのまま黙っているとは考えられまい」
「あっ」
大和の言っていることが理解できたのか、一之瀬さんが声を漏らした。
それに続いて、九条院先輩もハッとなにか気付いたような仕草を見せる。
二人の反応を見て大和は満足げに頷き、言葉を続ける。
「つまり、また似たような噂が立つかもしれぬ、ということでござる」
「は? なんでだ?」
純粋に疑問に思ったから尋ねたのだが、大和は呆れたようにため息を吐いた。
殴ってやろうか、こいつ。
「今回の噂、流した本人は慧殿に嫉妬かそれに類似した感情を抱いていると断言してよいだろう」
「ん?」
そんな感情を持たれるようなことはしていないはずだが。そう首を傾げていると、大和は再びため息を吐いた。
「考えても見てくだされ、美女、美少女を四人も侍らせ、放課後や休日にはそれぞれとデートしている。同性から考えて羨ましい限りではありませぬか?」
そうなのか? 俺にはよくわからんが……。
「そうですな、例えるならハーレム系ラノベの主人公のようなものですな」
「それは確かにウザいな」
大和がわかりやすい例えを出してくれたお陰で、なんとなく理解ができた。
ふむ、そういうことなのか。
「つまり、どこぞのクズい男子生徒が噂を流したと?」
「それも、女子グループの中核といえる人物と関わりが持てるくらいカーストの高い男子となりますな」
大和という意外なカードによって、解決ではなく犯人捜しの方向が大きく進捗してきた。
よし、これなら犯人を叩いて噂を取り消してもらう方が早いな。
そう結論付けた俺は、珍しく活躍を見せた友人とグータッチを交わし、目で語り合う。
──よくやった大和、それでこそ俺の友だ。
──ふっ、盟友の危険となれば、本気を出すのは当然よ。
俺はこのとき、初めて大和と友人になってよかったと心から思うのであった。
「結局、わたしたちはなにもしなくていいのかしら?」
「私は用なしですか、そうですか」
と大和の偉大さを実感していると、なぜか二人が不機嫌になってしまい、宥めるのにまた時間を要してしまった。
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