第27話 不穏な空気?

 週明け。いつもと変わらずかおると登校したが……。

 

 

「嫌な視線を感じる」

 

「どうしたでござるか? そんな痛いセリフを吐いて」

 

「普段の言動を省みろ」とため息を吐き、事情を説明する。

 

「朝から視線を感じてな」

 

「……けい殿、睡眠はよくとった方がいいでござるよ?」

 

「お前もしや聞く気ねぇな?」

 

 ギロリと睨むと、大和やまとは両手を振って苦笑を浮かべた。

 

「か、からかっただけでござるよー。そんなに怒らないでくれたまえ」

 

「お前がふざけるからだろ……」

 

 あぁ、学校来てもう帰りたい……。

 

 なんていつも通りのバカをしている間も、嫌な視線を感じる。どうやら大和は気付いていないみたいだが。

 

 というか、校門すぎた辺りは生徒が多くて判別できなかったが、教室だと人数が絞られるからすぐに察知できる。

 

 ふむ、朝から刺さる視線のほとんどは女子からか。

 

 女子からの視線を集めるなんて、まるでモテ期──というわけではない。侮辱まみれの視線など、もらっても少しも嬉しくない。

 

 

「慧殿、それで嫌な視線とは?」

 

「あぁ、そうだったな」

 

 すっかり忘れていたが、ふむ、こいつに相談すべきだろうか。

 

 先程の挑発もあるし、相談したくないなぁ。

 

 そう思っていると、大和は真剣な面構えで一言。

 

「いくら我でも、友の窮地にふざけるほど愚かではない、我を嘗めるな」

 

「……悪かったな」

  

 そうだ、いつもはふざけてるが、大事なときは真剣なやつだった。

 

 いやまぁ、普段がふざけすぎてて忘れかけてたけど。

 

「それで、嫌な視線とはどのようなものですかの?」

 

「あぁ、侮辱というか、蔑むようなそんな視線だ」

 

 そう答えると、大和は「なんだー」と笑みを浮かべる。

 

それがしにとっては日常茶飯事ですぞよ」

 

「プププ」と笑う大和の頭を鷲掴み、力強く握り締める。

  

 俗に言う、アイアンクローだ。

 

「あだ、あだだだだっ! 慧殿ぉぉぉっ、謝るので離してででででっ!?」

 

 ん? デデデがどうしたって?

 

「慧殿っ、目がっ、目が怖いですぞぉぉぉっ!」

 

 そんな叫び声が、朝礼前の教室に響き渡った。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 教室内でも、廊下でも嫌な視線は付きまとい、俺は逃げるように屋上へと向かった。

 

 いや、屋上に行くことは普段通りなのだが。

 

 

「いやー、理由はわからずじまいですのぉ」

 

「お前、楽しんでないか?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる大和に、俺は白い目を向ける。

 

 すると大和は「誤解ですぞー」と手を振り、真剣な面持ちに変わった。

 

「真面目に話しますと、顔もよくて性格もよくて、文武両道な慧殿がまともな理由もなく嫌われるとは思えないでござる」

 

 おい誰だそのパーフェクト超人は。まるでラノベの主人公じゃないか。

 

 そんな突っ込みを無視して大和は続ける。

 

「なのでできる範囲で調べてみたのですが」


「待て、お前いつそんなことをしていた?」

 

「普通に休み時間でござるよ。まぁ同士や数少ない話せる相手に訊いてみただけなのでござるが」

 

 こいつ、もしかして有能か?

 

 大和の意外な側面に驚いていると、大和は残念そうに肩を落とした。

 

「わかったのは女子の間で慧殿のよからぬ噂が流れていることだけ、それ以上は拙者には暴けぬでござる」

 

「かたじけない」と頭を下げる大和に、俺は「充分だ」と答え思考を巡らせる。

 

 運悪く今日は体調不良で鳴美なるみは休みだ。他に手を貸してくれるやつは、そうそういない。

 

 それよりも、だ。よくない噂というのが引っ掛かる。

 

 一之瀬いちのせさんは脅迫こそしてきたが、実行するほど腹黒だとは思えない。かといって誰かから恨みを買うようなことはしていないし……。

 

 早くも迷宮入りか?

 

 そう白旗を上げようとしたときだった。

 

 ──ピロリン。と着信音が鳴った。確認すると、差出人は九条院くじょういん先輩。


 簡潔に『放課後図書室に来てちょうだい』と書かれている。タイミング的に俺の噂のことだろうか。 

 

 俺はそれを大和に見せ意見を伺う。

 

「ふむ、かの先輩は慧殿のことを好いているゆえ、罠とは思えまい」

 

「まぁ、そうだな。あの先輩なら噂を流すなんて面倒なことはしないで、堂々と不満をぶつけてくるもんな」

 

 俺の意見に大和が同意。取り敢えず放課後は図書室に向かうことにする。

 

「よし、話も終わりか──」

 

 そろそろチャイムも鳴るので片付けを始めると、再び俺のスマホから着信音が。今度は一之瀬さんからのメールだ。

 

 こちらも用件は似ていて、『話があるので放課後会えますか?』というもの。

 

 先輩からも呼ばれているし、ついでに一之瀬さんも呼んでおこう。

 

 そう思い俺は『わかった。図書室に来てくれ』と返信して、大和と共に教室へと戻るのであった。

 

 

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