第24話 一之瀬氷雨と休日デート……

 あれあら更に小一時間が経過した。いまだ一之瀬いちのせさんの気に入る服は見付かっていない。

 

 残るエリアはあと四階と五階、正直見付けられる自信がない。というか、提案した物を片っ端から拒否されるのだ、どうしろと。

 

 なんて愚痴もここまでにして、一之瀬さんの服選びを再開しようか、尺が勿体ないから。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 四階の一角にあるその店は、他の店と違いややデザイン性の高い服を揃えている。

 

 フリルは勿論、特殊な形状の襟や模様はフィクションのファンタジーを彷彿とさせ、いかにも高価な衣装ばかり。

 

 だが一之瀬さんは興味を持ったらしく、見付けてすぐに駆け出したのだ。つまり次のステージはこの店だ。

 

 

「先輩、この二つならどちらが似合いますか?」

 

 いつの間にか取ってきた服を交互に合わせながら一之瀬さんは尋ねてきた。

 

 片方は前立てフリルが特徴な白を基調としたブラウスで、袖口に青色で花が刺繍されている。これくらいならまだ普通なのだが、更に裾がとにかくフリフリしていて、肩の部分も語彙が消え失せるくらい複雑になっているのだ、なにこれキモい(褒め言葉)。

 

 そしてもう片方は、襟元に赤色の細いリボンが付いた黒基調の肩開きゴスロリ。見せてもらうと背中はV字に開いており露出多めで、これを着て外出している人がいたらついガン見してしまいそうだ。

 

 ふむ、この二つなら──、

 

「そっちかな」

 

 フリル増し増しのブラウスを指差す。

 

 ゴスロリも悪くはないが、どちらかというとこのブラウスの方が似合う気がした。あくまで俺の主観だ。

 

 そんな不確かすぎる選択に、一之瀬さんはまじまじとブラウスを見つめ、

 

「ならこれを買いましょう」

 

 即決だった。

 

「いや、俺にファッションセンスがあるとは思えないし、自分で考えてみたらどうだ?」

 

「ちゃんと考えましたよ。考えて残った服を先輩に選んでもらったんです」

 

 なるほど、そうだったのか。

 

 合理的だなと納得していると、一之瀬さんは「これ持っててください」と俺にブラウスを渡し、店の奥に消えていった。

 

 この店でまだ探す気か。

 

 

 そして待つこと数分。今度も服を二着持ってきて──、

 

「おい待て、その選択肢は問題があるだろ」

 

「? そうですか?」

 

 一之瀬さんはコテッと小首を傾げ、自らが持っている服を交互に見比べる。

 

 片方は……簡単に言うならメイド服だ。まぁコスプレとかで見掛けるよりも実用的であるが。

 

 ……いや、普通の服よりもデザイン性高いし実用的とは言いづらいな。

 

 えっと、もう一つはスク水に袖やフリルスカートを付け足したような、もうそういうプレイでしか使わないような服だ。一応スク水よりも体のラインは見えないし、ギリギリ外でも着れ、着れ…………いや着れねぇよ、こんなん着て街中歩いてる人いたらもはや通報ものだわ。

 

 いや待て、なんでそんな服が売ってるんだよ、明らかにヤバいだろ。

 

「先輩、寝言は寝て言ってください」

 

 俺の言葉のどこに寝言が?

 

「それで、どっちが私に似合いますか?」

 

「この二択だけは絶対に答えたくない」

 

 答えたら俺の人生は破滅するだろう、断言できる。

 

 俺はなかなか引き下がらない後輩に、その意思を何度も伝える。ここで引いたら死ぬ、社会的に。

 

 何度、いや何十度繰り返し、やっと一之瀬さんが折れ首の皮一枚のところで生存することができた。

 

 俺は肺の空気を全て吐き出すように息を吐く。

 

「ごほっ、げほ……っ!」

 

 息出しすぎてむせた。辛い。

 

 一之瀬さんが「大丈夫ですか?」と心配してくる。その優しさが胸に染みる……ことはない。なぜって? 元凶がこいつだからだ。

 

 結局この店では最初に選んだブラウス以外買うことはなく、安全な買い物を終えることができた。

  

 時刻は三時過ぎ、やっぱりまだ続く。

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