第23話 一之瀬氷雨と休日デート
帰宅し昼食を済ませた俺は、
向かう先は駅前、時刻は一時と余裕はある。
まぁ早めに着いておいて損はないわけだし、もしかしたら行動時間が早まって早く帰れるかもしれない。
そう考えふと脳裏を過るのは見送りに出てくれたときの薫の顔。少し寂しそうで表情が曇っていた。
くそっ、あんな身勝手な後輩のために妹を悲しませるとは、兄として失格だ。
自責の念に駆られながら歩くことおよそ二十分。待ち合わせ場所に到着した。
辺りを見渡すが、あの自己中後輩の姿はない。
まぁ予定よりも十分早く着いたし、そんなもんか。
俺はどこで待とうかと辺りを見渡し──ポンポンと肩を叩かれた。
「先輩、気付かないなんて酷いじゃないですか」
振り向くとそこには、つい数時間前に脅迫してきた可愛くない後輩──
服装は午前と変わって、青のブラウスに白のカーディガンを羽織って、下は黒のミニスカートとハイソックスで固めている。
天然モノの銀髪と相まり、端的に言って幻想的だ。
「どうですか先輩、私に見惚れましたか?」
「バカ言え、俺は薫以外の女子に興味ない」
そう断言すると、一之瀬さんはドン引きしたように頬を引き吊らせる。
「近親相姦はアウトですよ」
「バカか、そういうのじゃねぇよ」
妄言を吐く後輩に、俺は呆れてため息を溢す。
一之瀬さんは「でも」と反論してきた。
「さっきの発言はそうとしか受け取れません」
「それはお前の思考回路がおかしいからだ」
脅迫といい、こいつの頭はどうかしてる。
そんなどうでもいい討論は五分ほど続き、最終的に俺が諦めることで幕を閉じた。
「さて、じゃあ行きましょうか」
「そうだな、さっさと終わらせてくれ」
ため息混じりにそう言うと、一之瀬さんはクルリと振り向き「それは先輩次第です」と笑った。
よし、さっさと終わらせよう。
俺はそう強く決心し、傍若無人な後輩の後を追うのであった。
◇ ◇ ◇
電車に揺られて辿り着いたのは、大型ショッピングモール。
レディースの服を多く取り扱っている店が多いので、ここで十分選んでくれという意図なのだろう。
モール内に入ると見渡す限り人、人、人……。
特になにかあるわけでもないし、長期休暇なわけでもないのにどうしてこんなに人が多いのか。
俺はそんな疑問を抱きながら、慣れ親しんだように進む一之瀬さんに続く。
一階の店は見向きもせず、エスカレーターで二階へ。こちらも一階同様人が多い。
というか、女子がほとんどだな。まぁレディースの店が大部分を占めているんだし、当たり前と言えば当たり前か。
そう一人で納得していると、ふと一之瀬さんが足を止めた。
「まずはこのお店で物色してもらいます」
「物色って、言葉悪いな」
意味としては合っているが、それでも聞こえは悪い。
そんな俺の突っ込みを無視して、スタスタと店内に足を進める一之瀬さん。
人の話を聞けよ。
なんて流れで始まったが、最初の店は一之瀬さんの気に入る服がなく早々に出てしまう。
それから第二、第三の店も彼女のお眼鏡に敵うことなく、精神力と体力と時間を無駄に消費しただけで終わってしまった。
現時刻は午後二時過ぎ。まだまだ地獄は続きそうだ。
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