第19話 九条院先輩と放課後デート?
作業を終え
店内にはお客さんが数名ほどおり、俺たちと近い年代からややお歳を召している方と客層は豊かなようだ。
席に着くと真っ先にやって来たのは店員さん。制服はダークトーンのブラウンやグリーン、そこに白色が加えられておりとても落ち着いた印象を受ける。
「さぁ
なるほど、先輩のお礼はそういうものか。
五ページあるメニュー表は、大半はケーキや羊羮といった和洋のスイーツで埋め尽くされており、所々にナポリタンなどの料理が記されてある。どうやらここはスイーツを中心とした喫茶店らしい。
「じゃあ抹茶タルトとコーヒーで」
「私はイチゴパフェとミルクティーをお願いするわ」
「かしこまりました~」
注文を受けると、店員さんは微笑ましそうにこちらを見てから奥へと消えた。
なにか勘違いしている気がする。
まぁいちいち気にすることでもないか。そう納得して店内を見渡す。
個人的には好きだな、この店。
今度は
「なんですか?」
「気に入ってもらえたようね」
「そうですね」と相槌を打つ。すると先輩は嬉しそうに微笑んだ。
「わたしもこのお店が好きだから、嬉しいわ」
「そうですか」
どうでもいいですけど、と心の中で付け足す。誰がどんなお店を好こうが、本当にどうでもいい。
「こほん。改めて、今日はありがとう、助かったわ」
「別にいいですよ」
「優しいのね」
本当に感謝しているように、先輩はニコリと微笑みながらそう言う。
ただ手伝っただけなのに〝優しい〟と言われる理由がわからない。
まぁただ、そう言われて嬉しくないわけでもないので、俺は「そうですかね」とだけ返して窓の外に目を向ける。
図書室で見たときよりも空は赤みを増しており、日暮れを感じさせられる。写真にでも納めておきたいくらい美しい。
夕暮れの風景に心馳せていると、頼んでいた抹茶タルトとコーヒーが届いた。先輩の前にはイチゴパフェとミルクティーが置かれる。
まずコーヒーを一口飲み、きれいな茶色のタルトを口に運ぶ。甘さは控えめで仄かな苦味が癖になりそうだ。
「このタルト美味しいですね」
「そうなの? わたしはいつもイチゴパフェしか食べてないからわからないけど」
「偏食ですね、これだけメニューが多いんですから他のも食べてみたらどうですか?」
「わたしはこのイチゴパフェに惚れ込んでいるからいいのよ」
「そうですか」
まぁ本人がそれでいいと言っているのだから、俺が変に口出しするべきではないのだろう。
「まぁ季節限定とか出ちゃうとつい頼んでしまうけど」
「……ホント、女性って限定品に弱いですよね」
薫も季節限定とか書かれてあるとつい頼んでしまう口だし、どうしてなのだろうか。
そんな会話を交えながら、俺は心落ち着く一時を過ごした。
◇ ◇ ◇
タルトを完食し、もう空も暗く染まり始めていることもあり帰ることとなった。
やっぱり奢らせるというのは性に合わず、自分の分を払おうとしたのだが──
『お礼だもの、わたしが払うわ。それにうちは金持ちだし!』
なんて言うので、素直に奢ってもらった。金持ちだという驕りはどうぞ止めてほしいが。
「ありがとね、わたしの自己満足に付き合ってもらって」
「あぁ、自覚はあったんですね」
「安心しました」と息を吐くと先輩は頬を膨らませジト目で俺を睨んできた。
「人に言われると腹立たしいのよ?」
「そうですか、まったく共感できませんね」
「まぁいいわ……今日は本当にありがとう、助かったわ」
「感謝も程々にしてください、ウザいですから」
どこぞのバカ幼馴染みを思い出しながらそう言うと、先輩はショックを受けたように固まってしまう。
悪意はないが……別にフォローを入れることでもないし、いっか。
「……こほん。それじゃあもう遅いし、お開きにしましょうか」
「そうですね、帰りましょうか」
「送りますよ」と言うと、先輩は衝撃を受けたように目を見開いた。
「慧君が、デレた……?」
「そんなこと言うなら送りませんよ?」
「ご、ごめんなさい、意外だったもので」
その言い種についため息が出てしまう。
まぁ確かに、普段の対応からは想像しづらいだろうが……それでも意外と言われると癪だ。
「もう遅いですし、先輩は美人ですから──って先輩?」
「あっいえ、なんでもないわ……」
少し顔が赤くなっているが、風邪だろうか?
「そうね、慧君の申し出なら受けましょう、珍しいし」
「人を珍獣みたいに言わないでください」
先輩は「ごめんなさいね」と微笑んで、さらっと俺のてを握ってきた。
「先輩」
「あら、ダメだったかしら?」
調子に乗った態度に少しばかりイラッとしたが、俺はため息を溢して「好きにしてください」と投げやりにそう言う。
先輩は嬉しそうに微笑んだ。
腕に当たっている凶悪な膨らみに俺はしばらく苦しめられるのだが、それは記さないでおこう。
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