第10話 膝枕明けの朝


「お兄ちゃん、起きてー!」

 

 

 ゆさゆさと肩を揺さぶられ、かおるの声に目を覚ます。そう言えば昨日は、薫に膝枕をされたまま寝てしまったのだ。

 

「おはよー」

 

 起きて早々薫の声が聞けるなんて、今日は最高の日になりそうだ。

 

 俺は上機嫌になりながら体を起こし薫の頭を撫でる。

 

「おはよう、薫──んんんっ!?」

 

 俺は薫の姿を注視して目を見張る。薫はところどころに寝癖を作っており、それが可愛い──そうではなく、パジャマの方だ。やや薄地で胸元が開いており、普通のパジャマよりデザイン性が高くなっている。

 

 というか、露出が多くないか……?

 

 俺は腕を組み首を傾げる。少し肌がベタついた。

 

 あれ、そういえば昨日風呂に入ったっけ?

 

 自分の腕を鼻に当て、慎重ににおいを嗅ぐ。

 

「……」

 

 特別臭うわけではないが、気持ち悪い。

 

「薫、俺シャワー浴びてくる」

 

「わかったー、その間に朝ご飯作っておくねー」

 

 薫ははにかむと、パジャマ姿のまま台所へと向かった。

 

 その姿で料理するのか?

 

 そんなことを思ったが時間が惜しく、俺は五十木気味に風呂場へ向かった。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 シャワーを済ませ制服に着替えてリビングに戻る。

 

 枕と布団はソファーの上に綺麗に置かれており、テーブルには朝食が並んでいた。

 

「お帰り~、今日の朝ご飯はフレンチトーストとベーコンエッグだよ」

 

 両手にコップを持ち台所から出てきた薫は、既に制服へ着替えいた。爆発していた髪も綺麗に直されている。

 

「じゃあ食べるか」

 

「うんっ♪ あれ、鳴美なるみちゃんは?」

 

 薫はコテッと首を傾げ尋ねてくる。

 

「別にいいだろ。あいつだっていつも来るわけじゃないし」

 

「えー? 作っちゃったけど?」

 

 その言葉通り、テーブルに並ぶ朝食は三人分あった。

 

「なら俺が二人分食べるさ」

 

「まぁそれならいいけど……」

 

「ちょっと寂しいね」と苦笑する薫。あぁ、なんて心優しいんだ……さすが薫、天使すら超越する人格の持ち主だ。

 

 俺は感極まり、薫の頭を撫でる。艶のある藍色の髪は、とてもサラサラしていて触り心地抜群である。

 

「んふ~♪ も~朝からそんなに撫でてぇ♪」

 

 薫は極上の笑顔を咲かせ体をくねくねと捩らせる。

 

 あぁもう、可愛いなぁ。

 

「えへっ♪ もうお兄ちゃんったらぁ♪」

 

 頭を撫でていると、薫は照れたようにはにかみぎゅーっと抱きついてきた。

 

「薫はホント可愛いなぁ」

 

「照れちゃうよぉ♪」

 

 嗚呼、幸せすぎる……。

 

 

 それからしばらくイチャイチャしていると、不意にピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 

 この時間から宅配が来るとは思えないし、まぁどうせ鳴美だろう。

 

 そう考えると気が沈む。今日は最高の日になるはずなのに。

 

 俺は薫を離し席に着かせてから玄関へと向かう。

 

 

「はい、どちら様ですか」

 

「けーくん! 私だよ!」

 

 案の定、朝の訪問者は鳴美だった。

 

 俺はため息を一つ溢し、扉越しに伝える。

 

「帰れ」

 

「酷いよ!?」

 

 扉越しなのにこれだけ声が伝わってくるとは。さすがウザ美。

 

 俺はもう一度ため息を吐き扉を開ける。驚いた表情の鳴美が、黄瞳で俺を見つめてきた。

 

「けーくん、ありがと!」

 

 鳴美は嬉々とした表情で入ってくると、駆け足でリビングへ消えた。

 

 

「薫ちゃん! けーくんがデレた!」

 

「デレてねぇよ!」

 

 リビングから聞こえてきた言葉を大声で否定し、俺はもう一度ため息を溢してリビングへと戻るのであった。

 

 

 それから通学路まで鳴美と薫が俺を見てニヤニヤしていた。

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