第9.5話 薫の享楽

 頭を撫でていると、お兄ちゃんは目を閉じ寝てしまった。

 

 静かな寝息を立てるお兄ちゃん。寝顔がとても可愛くてかっこいい。

 

 私はお兄ちゃんを起こさないよう頭を下ろす。

 

 本当はもう少ししていたかったけど、それだと足が痺れちゃうしもったいない。

 

 私は早足で自室とお兄ちゃんの部屋へ向かい、布団と枕を持ってリビングへ戻る。

 

 よかった、まだお兄ちゃんは起きてない。

 

 私は小テーブルとソファーを動かしてスペースを作り、お兄ちゃんの体を伸ばす。次にお兄ちゃんの頭を浮かせ、お兄ちゃんの部屋から持ってきた枕を差し込む。

 

 よし、準備ができた。

 

「それじゃあお邪魔して……」

 

 私はお兄ちゃんに布団を被せ隙間に入ろうとしたところで気付く。

 

 私ってお風呂に入ったっけ?

 

 …………………………。

 

 

「しまった!」

 

 

 お兄ちゃんに膝枕することにばかり気を取られて、お風呂に入ることをすっかり忘れていた。

 

 慌てて自分のにおいを確認する。

 

 臭くは……ないけど、ちょっと気になるかなぁ。

 

 もしお兄ちゃんと添い寝して、朝お兄ちゃんが私のこと臭いって思ったら……。

 

 そう考えると、全身からサァッと血の気が引く。

 

「おっ、お風呂に入らなきゃっ!」

 

 私はお兄ちゃんが起きないよう音を立てず、素早くリビングを出て脱衣所へ向かった。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 体の隅まで洗い、ちょっとだけ大胆なパジャマを着て私はリビングに戻る。

 

 お兄ちゃんはまだ気持ち良さそうに寝息を立ていた。

 

 私はひとまず安堵の吐息を溢し胸を撫で下ろす。

 

 お兄ちゃんと添い寝なんて、いつ振りかな~♪

 

 久しぶりのことに胸を高鳴らせ、お兄ちゃんの隣に体を忍ばせる。

 

 

「ふわぁ~っ」

 

 いつの間にか染み込んだお兄ちゃんの匂いと熱に包まれて、私は思わず声を漏らす。

 

 ふへへっ、久しぶりだよぉ♪

 

 私はお兄ちゃんのシャツに顔を押し当て、猫のように頬擦りをする。

 

 お兄ちゃんの香りが鼻腔をくすぐり、体に心地よい衝撃が駆け巡る。とてつもない幸福感が私を包み込み、脳が蕩けだす。


 だめぇ……これ以上は限界……っ♪

 

 私は残った理性を振り絞って目蓋を閉じる。

 

 よし、もう寝ちゃおう……でも。

 

 私は目を開け、お兄ちゃんの顔を見つめる。

 

 少しだけなら、いいよね?

 

 私はお兄ちゃんの額に軽くキスをして、熱くなっているであろう顔をお兄ちゃんに押し付けながら眠りに就いた。

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