第8話 一之瀬氷雨と屋上ハプニング
放課後。俺は
途中
古びた扉を押すとキィ……と音が鳴り、今にも外れそうにガタガタと震える。どれだけ放置されていたのかと心配になってきた。
この様子じゃ、屋上も汚れだらけなんだろうな。
想像すると気が滅入るが、約束だからと自分に言い聞かせ扉を開け放つ。
「おぉ」
屋上は以外にも、綺麗な状態だった。古さゆえ気になる汚れもあるが、基本的には綺麗と言える状態だ。
まるで誰かが欠かさず手入れをしているように。
「
そして俺を呼び出した本人──
俺はやや変形した扉を閉め、一之瀬さんの元へと向かう。
「一之瀬さん、用事ってなにかな?」
「先輩は好きな人、いますか?」
「は?」
俺は確か用件があるからと呼ばれたはずなのだが……どういうことだ?
「すまん、質問の意図が読めない。それが一之瀬さんの用件なのか?」
「違いますよ、ただの確認です」
ぶっきらぼうに一之瀬さんは答え、「早く答えてください」と催促してくる。
な、なんなんだこの後輩は……。
「好きな人はいるんですか?」
「まぁ、いるな」
「だっ、誰ですか?」
やや緊張した声音で尋ねてくる一之瀬さん。それに対し俺は堂々と、
「
と答える。
「か、薫さん? それって私と同学年の東原薫さん……って」
一之瀬さんは、なぜか俺に白い目を向けてくる。
「もしかしなくても、先輩の妹さんですか?」
「あぁ、俺の妹だ」
ん? 俺の妹って響きいいな。
そんなことを考えていると、一之瀬さんが続けて尋ねてくる。
「血の繋がっていない妹って設定ですか?」
「いや、正真正銘血の繋がった妹だが?」
「それじゃあ……先輩は近親相姦クズ野郎ってことですか?」
「ちげぇよ!」
後輩の的外れな推測に、つい声を荒らげてしまった。
「普通に妹として好きなだけだ」
「あ、そうですか。安心しました」
平らな胸に手を当て、一之瀬さんは安堵したように息を吐いた。
失礼な後輩だな。……ん?
「どうした? 俺の顔になにかついてるか?」
ため息を吐くと、なぜか一之瀬さんが目を鋭く尖らせ俺を睨んでいた。
「東原先輩、今とても失礼なこと考えてませんでしたか? いえ、考えてましたよね?」
特に胸のこととか、と一之瀬さんは付け足す。
本当に女子ってのは勘が鋭い。
俺は降参だといわんばかりに両手を挙げ首を横に振る。
「まぁ許してあげます」
腕を組みそっぽを向きながらそう言う一之瀬さん。
どこかの先輩に比べればマシだが、一年生が先輩に対してそんな態度だといつか危ない目に遭いそうだな。
少しだけ彼女の先が心配になるが、まぁ無理に俺が関わることもないか。そう考え気を改める。
「それで、結局俺を呼び出した理由はなんなんだ?」
「先輩は男に興奮する変態じゃないですよね?」
「同性愛者を変態と呼ぶのは止めて差し上げろ。あと俺はノーマルだ」
「よかったです」
なにがよかったのだろうか。と首を捻っていると、一之瀬さんはおもむろにスカートの端を摘まむと──
ペラリ。
スカートを躊躇いもなくたくし上げた。
瑞々しさ溢れる張りのある太ももと、デザイン性の高いフリルのあしらわれた淡い水色の下着が露になる。
……。
「どう、ですか?」
先に声を上げたのは一之瀬さん。頬を紅潮させ碧の瞳を潤ませながらも、手はスカートを離すまいと力強く握っている。
俺は頭に手を当て天を仰ぎ、一言。
「恥ずかしくないのか?」
「なっ!?」
一之瀬さんは珍しく動揺を露にして、プルプルと震えだした。朱色が耳まで侵食している。
「せっ、先輩は女の子の下着を見ても動じないんですか……っ!?」
「ん? まぁ薫ので見慣れてるからな」
そう答えると、一之瀬さんは「なっ!?」と目を見開いた。
「まさか東原先輩、本当に過ちを……!?」
「違う違う。うちは両親が家にいないから兄妹で家事を分担してるんだよ」
「あぁ、だから動じなかったのですね」
安心したような、不満そうな感情を交互に見せながら一之瀬さんは吐息を溢した。
それでもスカートは手放さないが。
「で、いつまでそうしてるつもりなんだ?」
俺はいまだ姿を現している下着を指差し、首を傾げる。
「う、うぅ……」
一之瀬さんは羞恥に耐えきれなくなったのか、スカートを手放した。太ももと下着が隠れる。
「せ、先輩は女の子の体に興味はありませんか?」
「んー? どうだろうな」
興味がない、と言い切れないが……だが興味があるのかと考えると、どうしても首を捻ってしまう。
「まぁ一般男子並みにはあると思いたいけど」
「それなら普通女の子の下着を見て興奮しないはずがないんですが」
「だからそれは薫で見慣れるからと言ってるだろ」
何度言えば理解するのか。そうため息を吐くと、一之瀬さんは「じゃあ」と身を乗り出す。
「こっちはどうですか?」
シャツのボタンを外し、指先で引っ張り胸元を露出させる一之瀬さん。
上下セットなのかと感心しながら、俺は察した。
「ビッチはお断りだ、帰れ」
「は──はぁぁぁぁぁっ!?」
一之瀬さんは声を荒らげ「どういうことですか!」と迫ってきた。
俺はそれに合わせ数歩後ろへ下がる。
「止めろ近付くなビッチ」
「わっ、私はビッチじゃないですよ!」
「いやいや、さっきの言動からどう考えてもビッチだろ」
「違いますよ!」と一之瀬さんは声を荒らげるが、どうも信用ならない。
そう考えていると、一之瀬さんは顔を真っ赤にしながら、
「私は処女ですよ!」
そう叫んだ。
…………………………。
しばらく沈黙が続いたが、その空気が一之瀬さんを真っ赤に染め上げていく。
「あ、あの、私……っ」
一之瀬さんはあたふたと慌てだし、「失礼します!」と扉目掛け走り出した。
「あっ」
だが突然動いたからか足を縺れさせ退勢を崩した。
あぁ、あのままだと怪我するな。
俺はそう考えると自然と動きだし、
「大丈夫か?」
一之瀬さんを抱き抱えていた。
本当に俺はなにをしているんだと呆れるが、まぁ俺が変な誤解をしたのが原因なんだし助けるのは当たり前か。
「……」
一之瀬さんは無言で俺の顔を見上げ、そして次に俺の手に視線を向ける。
俺の手がどうかしたのかと釣られ俺も目を向けると──俺の手が、ガッチリと一之瀬さんの胸を鷲掴みにしていた。
あれ、なにかデジャブ──
そう考えたところで謎の衝撃が俺の顔面を襲い──あぁ、これが走馬灯、か……っ。
「あ、東原先輩ぃぃぃぃぃいいいいいっ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます