第5話 妹とくつろぎ

「ただいま」

 

 帰路でいろいろあったが無事帰宅した俺は、疲れを吐き出すようにため息を溢しリビングへ向かう。

 

「お帰り、お兄ちゃん」

 

 リビングから覗く台所で、私服にエプロンを着けた姿のかおるが料理をしていた。

 

「ただいま。今日の夕飯はなんだ?」

 

「今日は唐揚げだよ」

 

「そうか」

 

 確かに、耳をすませばジューと鶏肉を揚げる音がしていた。

 

 この音を聞いているだけでお腹が空くな。

 

 帰宅して早々食欲を刺激されたためか、俺の意識とは別にお腹が『ぐぅぅぅぅ』と鳴った。

 

「ふふっ、可愛いお腹の音だね」

 

 そう微笑む薫の方が可愛い、内心そう叫ぶ。

 

「できるまでまだ時間あるから、先お風呂入っちゃってよ」

 

「わかった」

 

 薫に促され、俺は自室へと向かいそれから風呂に入るのであった。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 風呂から上がりリビングに戻ると、テーブルの上には夕食が並べられていた。

 

「お兄ちゃん、もう食べれるから席着いてー」

 

 白米が盛られた茶碗を二つ運びながら、薫がそう言ってくる。

 

 俺は頷き、いつもの定位置──薫の隣の席に腰を下ろす。

 

 眼前に並ぶのは、揚げたての唐揚げにサラダ、スープの三品。

 

 いつものことながら、薫の料理の腕前に頭が上がらない。

 

「「いただきます」」

 

 声を揃え合掌。あぁ、すごい兄妹みたいだ……。

 

「お兄ちゃん、今日の唐揚げは特別なんだよ!」

 

 さて食べようと唐揚げに箸を伸ばすと、薫は興奮気味そう言ってきた。

 

 なにか隠し味でもあるのだろうか。それとも良い肉を使っているとか?

 

 そう思考を巡らせながら、唐揚げを口に放り込む。

 

 衣はサクサクで肉はジューシー。そんな平凡な感想しか言えない自分が恨めしいほど、薫が作ってくれた唐揚げは美味しかった。

 

 だが、いつもの唐揚げと同じじゃないか? 

 

 めちゃくちゃ美味しいのは変わらない。なら特別とはなんのことなのだろうか。

 

 そう考えていると、薫が「どう?」と感想を求めてきた。

 

「んー、いつも通り美味しいけど」

 

「そっかぁ」

 

「なぁ薫、今日の唐揚げはどう特別なんだ?」

 

 答えがわからず、俺は薫に尋ねる。

 

 すると薫はニヤリと微笑み、

 

 

「お兄ちゃんへの愛情が込められているのですっ!」

 

 

 そう胸を張った。

 

 うっ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ!

 

 それに耐えれず、俺は箸を置いて両手で顔を覆い、必死に雄叫びを噛み殺した。

 

 なんじゃそりゃぁぁぁっ! 可愛すぎかっ!? 俺の妹は可愛すぎかよぉっ!

 

 

「お兄ちゃん、そんなに可愛いって言われたら恥ずかしいよぉ」

 

 薫の呟きで我に返り、隣に座る薫に目を向ける。薫は頬を紅く染め、煌めく瞳を忙しなく走らせていた。

 

 ……あれ? もしかして口に出てた?

 

 ツゥ……と冷や汗が背中を伝う。

 

「あぁぁぁぁぁっ! ごめんよ薫ぅぅぅっ!」

 

「ふぇっ!? 恥ずかしかっただけだし、そんなに謝らなくてもいいよ~」

 

 広げた手を左右に振り、薫は控えめにはにかむ。

 

「ぐふっ」(クリティカルヒット)

 

 破壊力抜群のその可愛らしい微笑みに、俺は椅子から崩れ落ちフローリングの床に横たわる。

 

 だっ、ダメだ……。薫が可愛すぎて辛い……。

 

 俺は痙攣を繰り返しながら、椅子を掴みなんとか体を起こす。

 

 

「大丈夫お兄ちゃんっ」

 

 急に倒れた俺に驚いたのか、焦った様子で手を差し伸べてくる薫。

 

 嗚呼……神はなんて罪深き存在を産み出したのだろう……。ありがとう、神よ。あとついでに両親。

 

 

「お、お兄ちゃんどうしたの? 祈るみたいに手を合わせて……」

 

 我に返ると、薫が戸惑ったように俺を見つめていた。

 

 自分の状況を確認すると、俺は今床に膝を突き胸元で祈るように手を合わせていた。

 

 なるほど、確かに戸惑うわな。

 

 俺は咳払いをして立ち上がり、椅子に座り直す。

 

 

「さて、冷める前に食べるか」

 

「うん」

 

 それから俺たち兄妹は、雑談を交えながら暖かい夕食を摂るのであった。

 

 

     ◇   ◇   ◇

 

 

 午後十時過ぎ。夕食も済ませ授業の課題もこなした俺は、早々に寝る準備をしていた。

 

 いつもならアニメを視聴してから就寝するのだが、今日はやけに疲れたので、アニメを観る余裕がない。

 

 それもこれも上から目線の先輩とウザいくらい元気な幼馴染みのせいだ。

 

 ふと脳裏に浮かんだ顔を払い消し、枕元に置いていたリモコンで部屋の電気を消す。

 

 

「ふぁぁぁっ、ねむ……」

 

 布団に入ってから電気を消せばよかったと後悔しながら、俺は手探りでベッドまで向かい布団に潜る。

 

 すぐに睡魔が襲ってきて、俺はそれに逆らうことなく流され沼に沈んでいく。

 

 

 ──ガチャ。

 

 

 微睡みの中、ドアが開いたような音が聞こえたが閉じた目蓋は開くことを許さず、「まぁいっか」と俺は眠りに就いた。

 

 

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