第10話

 俺は立ち上がると、ホワイト・ボードの下に置かれていたペンを掴み、キャップを外して、そこに各時代が横に繋がる様に列記した。

「ほら、これを見て良く考えて見ろ。日本にっぽんでクリスマスを祝って無いって、それは別に江戸時代だけじゃ無くて、その前の安土桃山と戦国から更に昔、南北朝とか室町時代だって、日本はクリスマス何て祝って無かったと思うぞ」

 俺はペンを握りつつ、1番左に書いた現代・近代の隣に書いた江戸時代から、右端の最後にある縄文時代まで、矢印を引っ張る。

「う……それはそうだけど……」

「なら、クリスマスと縁遠いものを、別に江戸時代に限定する必要は無いじゃ無いか。有史以来から、つい最近までの全部で良いだろ」

「じゃあ、そのホワイト・ボードに書かれた時代のそこからそこまでを、私はエイジ・オブ・ノーワン・セレブレート・クリスマスと名付けるわ。信長とか侍とかは、ノー・セレブレート・ピープルね。はい、これで回答終了~!」

「おい、勝手に名付けて回答を終わらせるなっ」

「エイジ・オブ・ノーワン・セレブレート・クリスマス……面白いネーミングだなあ」

 有栖川はそう言って笑う。

「はぁ? そうか? まあ、回答したのなら良いか……。じゃあ、松原の回答としては、そう言う風にしとくぞ」

「良いわよ、オッケー!」

 完全リバティー状態の奈々美をよそに、俺は彼女の言った『クリスマスと縁遠いもの』に付いて、自分のノートに記述した。

「はあ、これでようやく、1人終わったなあ」

 有栖川も着席しながら、俺のノートを眺めてそう言う。

 全く、1人目でこれとは、先が思いやられる。

 そう言えば、さっき奈々美は祝うと言う意味のセレブレートと言う単語の最後に、三人称単数現在形のsを付けてい無かったが、それに付いては、後で俺が修正して回答して置いてやろう。

「はぁ……これでやっと解放されたし」

 と、そう言って奈々美は先程閉じた文庫本を再び開こうとする。

 お前は課題をほっぽらかして、そんなに小説が読みたいのか。

「おい待て。お前へのアンケートはそれで良いが、まだまとめをどうするかとか、そう言う打ち合わせを、まだして無いだろう」

「ゲッ! まだやるの、これ?」

「当たり前だ。きちんと終わらせるまでが研究課題だぞ」

 そう言って、俺は先程立った自分の席へと着席する。

「厳しいなあ」

「松原は甘やかすとすぐに駄目になるからな。ちょっと締め上げて置く位が1番良いんだ」

「ふん、何が丁度良いよ。幼馴染みだからって、すっかり世話焼きづらしちゃって……。で、それで、アンケートのまとめとか、誰がどうするのよ? 言っとくけど、私、そんなの出来無いわよ?」

「そんな事は最初から分かっている。よって、松原は、知り合いとか女子バレー部の人達に、このクリスマスと縁遠いものに付いて、アンケートをして来てくれ無いか」

「げえっ……それ、私が聞きに行くの?」

「お前以外に、誰がいるんだ? 別に全員で無くても良いから、幾つか集計に必要なサンプルを取って来てくれ」

「それって、生体細胞、みたいな……? キシシ……」

 奈々美は歯を見せて意地悪く笑う。

「バレー部員のサンプル? 誰がそんなえげつ無い奇怪な物を取って来いと言った? 恐ろしい事を言うな! アンケートに回答して貰って、その意見を回収するんだっ」

「そんなの分かってるわよ! ただの冗談でしょうっ!」

 奈々美は苦々しい顔をしてそう言う。

「そう言うのは、時と場所を考えてから言うんだな」

「チィッ……絶対ウケると思ったのに」

 一体、誰にだ。

「まあ、アンケートに付いては分かったけど。それで、成海とすみれの方はどうするの?」

「今週は忙しいから、私は、まとめの方を担当させて貰おうかなあ」

「と言う事だ。アンケートの方は俺も知り合いを当たって見るから、まあ、そう不満そうな顔をするな」

「あ、そう。なら、分かったけど……」

 奈々美は素直にそううなずいた。

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