第8話
奈々美は言う。
「ふぅん。で、ヘルペス・ウィルスって、インフルエンザや日本脳炎みたいに、
「うん。一応、
「ふぅん、そうなのか。詳しいな」
興味を覚えたので、俺はその話に乗り、有栖川の発言を促す。
「うんうん。定期接種は任意接種とは違って無料だから、受けられる機会があれば、なるべく受けて置いた方が良いんじゃ無いかなあ?」
「ふんふん、水痘ワクチンは定期接種っと……。で、それってどう言うものなの?」
「それは……(以下略)」
奈々美は感心して、有栖川の臨時ウィルス学講座を聞いている。
学校の勉強とは全く無関係とは言え、奈々美が学問に興味を持つのは感心な事なので、俺はそんな2人のやりとりに余計な横槍を入れ無いで置く事にした。
水痘ワクチンについて解説する有栖川の話を聞きながら、俺は思う。
これは俺のバイト先から教わった事だが、免疫力とは、言うなれば、その個人や動物個体の体に備わっている免疫システムが、病原体に対して行った戦いの経験によって得た戦闘レベルである。
予防接種は、未知の病原体に対し、まるでスポーツの練習試合の様に、その相手と
だが、そうした予防接種を受ける事で得られる免疫には、2つの種類がある。
1度免疫を獲得しさえすれば、
今も大気中の微生物から呼吸器を守っているこの俺の免疫システムにも、戦法を覚え易い病原体と、覚え難いそれがあると言う事だ。
免疫システム何てのはその命を守る為にあるのだから、人間らしく忘れる何て事はせずに、パソコンのハード・ディスクに記録したデータの様に、1度保存したらずっと覚えていてくれれば便利なのだが、人間を含めた生物の身体と言うのは、どうもそう言う訳には行か無いらしい。
複雑な戦い方はいつまでも覚えている訳には行かないので、その病原体と暫く戦っておらずブランクが空いていると、生き物の記憶と同様、それへの対処方法を段々と忘れて行って仕舞う様だ。
しかし、予防接種で得られるのがそうした一時的な免疫であり、接種の効果が薄れるほどの時間が経過していたとしても、殆ど場合、同じ種類のワクチンを追加的にもう1度接種する事で、それはまるで、今しがた、特別授業のノートを見て
再接種を行うと、勉強の予習・復習の効果の様に、既に獲得した免疫力を更にブーストして強化する事が出来るので、1度受けた予防接種でも、それから何年も経過している場合には、追加で再接種して置いた方が望ましいらしい。
これが、俺が任意の予防接種をする時に、風祭先生から受けた、免疫力におけるブースター効果の説明である。
そのブースター効果を狙う為と言う事で、バイトをし始めたあの時は、この身体に何本もの色々なワクチンを打たれて仕舞ったが、今年は春先から風邪一つ引いてい無い所を見ると、今の所、その効果はあった様だ。
その時に受けた何種類かの混合ワクチンを打つ費用は、バイト先が全額負担してくれたので、俺としては、リアルで課金アイテムを無料で使えたみたいで得した気分だったが、この部室にいる他の面子はともかく、奈々美はそんな予防接種の注射を嫌がりそうだな。
「ん? て言うか、水痘ワクチンって、それ、私、受けた記憶が無いけど?」
「さっきも言ったけど、定期接種に指定されたのはおととしからで、それ以前は、任意だからなあ……」
「えっ!? 何!? じゃあ、私、予防接種受け無いと行け無いの!?」
お前は何を怯えてるんだ?
「うわっ! あの痛い注射を受けなければ行け無い何て……最悪ゥ~!」
そこで奈々美は、再び頭を抱える。
注射が嫌だったのか、やはりな──。
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