第6話

「はぁ? 漫画読書部? 私立の学校なら、どうか知ら無いが……。この東浜高みたいな普通の公立高校に、そんな部活があるか?」

「良いじゃ無い! 放課後のこのタイムを、部室で漫画を読みながら過ごすの。あっ、そうだ。この推小研も漫画を置いて見れば、もっと部員が増えるかも知れないし……」

「おい、この部室に部活とも授業とも無関係な漫画本を持って来るとか、そんな事はこの俺が許さ無いぞ! なあ、高梨!?」

 そこで俺は新聞を読み続けている高梨の方を向き、援軍を頼んだ。

 高梨は突然の投げ掛けにやや驚いた様子だったが、やがて口を開く。

「ううん? 漫画作品を、この部室に……か」

「ああ。松原がそう提案してるんだ」

 すると高梨は、暫くの沈黙の後、静かに質問した。

「──それは、推理と関係ある物なのだろうか?」

「そ、それは勿論よ!」

 と、奈々美は心にも無い様な台詞を回答する。

「そうか……。もし、そうならば、ここに既にある他の蔵書と同様、その手の推理と関係のある漫画作品を、顧問の先生に許可を頂いた上で配置を検討するのも、部長の俺としてはやぶさかでは無いが……」

 と、言葉を濁した、やんわりと否定的な解答。

 俺は奈々美の方に向き直り、

「ほら見ろ。高梨が本当にどう思ってるのかは知ら無いがな。松原、お前はそんなに漫画が好きなら、隣の動画部に行って読ませて貰え、動画部に」

 奈々美は椅子から立ち上がり、猛烈な勢いでそんな俺の言葉に反発する。

「はぁ!? 何よ!? 動画部って!? 私、漫画何て全然描け無いしぃ~っ! 成海、あんた、私の絵がド下手なのを知りながら、親友の癖に敢えてそんな事を言うのねっ!」

「え? あ、そうだったな。悪い、忘れてた」

「フン!」

 奈々美はそう言って、そっぽを向く。

「あ、なあ……松原? 俺はな、別に、お前の絵の下手さを取り上げたかった訳じゃ無いんだ」

「どうだか」

 奈々美はそっぽを向いたまま、すっかりすねた表情で腕組みをする。

 俺は言葉を続けた。

「兎に角、漫画を持って来るのは駄目だし、委員会活動に付いては、お前が自分から進んで立候補した以上、何だろうが、きちんと任された仕事は自分で責任を持って、鋭意えいい実行してくれ。何か迷う事があったら、それに付いての相談だけは乗ってやるから、遠慮無く言え」

 いまのやりとりを見ていた有栖川は言う。

「……私の方も、委員会活動に付いては、そんな感じかなあ」

「チッ……」

 自分のやるべき書類の仕事に付いては、孤立無援の救援無しと言う事が分かり、奈々美の顔が険悪になる。

「あっそ。て言うか、成海の言ってる事は、全然納得出来無いんだけど。何で漫画が駄目なのよ? 漫画なら図書室にも、あるじゃ無いのよ?」

「お前がいつも読んでる様な少年漫画と、図書室で貸し出しているブラックジャックやらを一緒にするなっ」

「チッ……」

 奈々美は舌打ちをし、向き直る。

 そんな奈々美を見て、有栖川はこんな事を言う。

「って言うか、奈々美が所属している体育祭実行委員の事だけど、その仕事がそんなに嫌なら、私と同じ放送委員会にすれば良かったんじゃ無いかなあ?」

 奈々美は首を振る。

「ううん。放送委員とか、そんなの駄目よ。私、校内放送とか、そう言うの緊張してトチると思うし」

 いつぞや、小学校時代の学芸会で、保護者達を含む大勢のギャラリーを前に、体育館の壇上で台詞を噛みまくった奈々美の姿を俺は思い出す。

「ああ、それは十分に考えられるな。こいつ、大勢の人を前にすると、時々、緊張して失敗する事があるんだ」

「そんなの、誰だってそうでしょ……。私だけじゃ無いし」

 俺と奈々美の言葉を聞いた有栖川は、残念そうにこう言った。

「うーん、そうかあ……。世の中、上手く行か無いもんだなっ」

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