第2話

 が、何だか話し出すと面倒臭そうなので、そんな読書中の奈々美は、ひとまず置いて置く事にした。

 一通りの挨拶が済んだので、俺は早速さっそく、部長の高梨と永瀬に自分達の用事を切り出した。

「なあ、高梨に永瀬。2人とも、俺達が来た早々で悪いんだが、ちょっとこの部室で、俺と有栖川と松原の3人で、さっき先生から聞いて来た特別授業の課題に付いて、話をしても良いか? たった今、来週発表する研究課題のテーマが出たんで、すぐにでもその段取りを付けて置きたいんだ」

「何だ、勉強をするのか? まあ、俺の方としては、それは一向に構わ無いが……」

 と、高梨は永瀬の方を見ながら言う。

「ええ、私も、全く構いませんが」

 永瀬は、その人懐こい顔をこちらに向けて、ニコリと頬笑む。

「そうか。邪魔して済ま無い」

「何だか、悪いなあ……」

 高梨はそう謝る俺と有栖川の顔を見つめ、首を振った。

「いや……。時々だが、俺も、この部室を妹達や自分自身の自習などに使っているからな」

「あ、そうなのか」

「ああ。学校側が生徒に貸し与えている部室──。その利用目的を厳密に捉えるなら、確かに部員各自の読書や自習などは本来、予定されている使い方では無いと言える。が、しかし、同様の事は、この学校に存在するどの部活であったとしても、おそらくやっている事だろう。そんな部室内で、法律や校則により禁じられている賭け事や喫煙、飲酒などの非行ひこう行為をしているならばかく……それが学校内で行うに相応ふさわしい合法的で文化的な教育関連活動でありさえするなら、自習や読書は、税金が投入されている公立高校に置かれた文化部の活動方法の1つとして、その目的にそぐわ無いとまでは言え無いはずだ。何、部室の外にまで迷惑が掛かる様な行為で無ければ、別に遠慮する事は無い。各自の好きに過ごしてくれ」

 と、高梨はそんな風に、まるで客人を食堂に招くペンションのオーナーの様な事を言い、グループ・ワークの話をする許可を求めた俺に自由な活動を促した。

 県立東浜高きっての名探偵であり、更に芸能人張りの面構えの良いルックスで有名な、この天才とも言うべき人物──高梨たかなし玲人れいとの発する言葉は、こんな風にいつも大抵、その解釈に求められるレベルが高く、難解だ。

 それは、普通の高校生が常日頃に交わしている会話と比べると、やや高度な内容なので、その意味内容を正確に把握するのには、受け取った内容を噛み砕く若干の時間と労力が必要とされる。

 今も高梨は、俺の様な通常人の頭では直ぐには理解の及ば無い様な複雑な事を色々と喋ったが、それを要約すれば、合法的かつ教育的な行為で、更に部室の外にまで迷惑が掛かる様な行為で無ければ、別に遠慮する事は無いと言う事の様だ。

 それはつまり、普段の学校生活の中で、教室や図書室内で生徒が普通に行っている様な活動なら、文化部の部室でそれをやっていようと、誰彼だれかれとがめ立てされる事は無いだろう、と言う、高梨の推小研部長としての立場から発した、一種の見解表明なんだな?

「あ、そうか? じゃあ、ちょっと失礼して、早速、始めさせて貰うぞ」

 と、俺は最後に一言、断わりを入れる。

「ああ。存分にやってくれ」

 高梨がそう返事をし、グループ・ワークの活動をしても良い準備が整った様なので、俺はやっと、眼前の奈々美に話し掛ける事にする。

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