第53話 ナンパ②

「このあいだ〇〇〇(モデル系美女が闊歩する有名な繁華街)で連絡先交換した人こないかなぁ……」

 客が入らず、待機席で新人どうしが駄弁っている。

 週末の夜、プライベートで女友だちと飲んでいるところをナンパされたらしい。

 聞くに堪えない。

 面と向かって注意するお局がいない昨今、新人はのんきで自由だ。

「キャバ嬢だって話したの?」

「うん」

「連絡してみれば?」

「そうしようかなぁ……」

 つぶやいた新人の顔はジャガイモのようだ。

 腕や脚は永久脱毛症の効果でつるんとしているが、顔に関しては大金をドブに捨てたらしい。

「既読にはなるんだけど……」

 営業LINEを送ったが返信がないらしい。

「忙しいのかなぁ……?こないかなぁ……」

 くるはずがない。

 相手の当初の目的は“お持ちかえり”だ。

 ジャガイモなら簡単に落とせると踏んだのだ。

 だが、未遂に終わってしまった。

 そのジャガイモから、

『ヤらせないけどお店にきて!私を指名して!お金を使って!』

と、せがまれているのだ。

 相手にとってなんの得になる!?(笑)。

 よほどのボランティア精神の持ち主でもない限り、無理な話だ。

 〇〇〇の遊び人の感覚なら、キャバクラで金を使うのに、わざわざジャガイモを指名したりしない。

 彼らは美女が大好きで、美女にのみ金を使うことを公言している。

 仮に今、ジャガイモが、

『これから飲みにいきませんか?』

と誘ったら、相手は即レスしてくるだろう。

 さすがに食事代ぐらいは出すだろうよ。

だが、

『課金システムじゃ遊んであげないよー!』

ってことだ。

 彼らは“安い女”と“高い女”を使いわけている。

 それを周囲に臆面なく話すのだ。

 だが、当事者のジャガイモは、それを知らない。

 男にまつわる金やステイタスが転がる享楽や犯罪の最も色濃い街が、自分にもっともふさわしいと街だと信じて疑わない。

 ほとぼりも冷めぬうちにまた、くり出していくのだろう……。


 だから、なんだって?

 表面化したジャガイモの自惚れは公害だということだ。

 その整合性のなさは、不本意にも見ききさせられてしまった他者の気分や体調を否応なく害する。

 公害でなければ誰もジャガイモをとがめたりはしない。

『私って綺麗!』

『モテモテ!』

 表面化しない自惚れなら、私にだって少しはある。

 自分で自分を鼓舞しなければ、自分で自分を愛さなければ、生きていくのはとても辛い作業だ。

 だが、表面化した自惚れは美女にのみ許された行為だ。

 そこには、美女が美女として他者に認識される厳然たる事実があるだけだからだ。

 美意識に流行や地域性や個人差があるとしても、限度はある。

 美女はやはり美女で、ジャガイモはやはりジャガイモだ。

 



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