第46話 スタンドプレー

 私の御指名さんが忘年会の二次会で部下をともなって来店した。

 この時分、指名被りで大忙しの魅力的な嬢にはついてもらえないので、使えない新人や、口うるさい古株や、無愛想や、デブスや、貧乏臭いのが枝(指名客の連れ 。指名客を木の幹に、連れを枝に例える)に交替でつけられる。

 デブをあてがわれた末席の若者が不機嫌だ。

 店長やボーイの接客態度や部下の満足度を含め、ボスのお気に召さなければ店から足が遠のいてしまうのだから、私は内心ヒヤヒヤだ。


「これが最近の(嬢の)レベル?」

 率直なボスの物言いが胸に刺さる。

 返す言葉もない。

「綺麗な子もいるんだけど指名が入っててついてもらえないんだよね」

 私はボスに耳打ちする。

 中堅の部下についた才色兼備な嬢も、指名客が来店し、すぐに抜けてしまった。

 まだ、席が暖まる前だった。

 次いで、おっぱいだけが取り柄の嬢がつく。

 中堅の部下はいつも

「いてもいいですか?(場内指名((フリー客から取る指名。この場合は枝から取る指名))してもらえませんか?)」

と催促されれば、どんな嬢でも反射的に頷いてしまうが、おねだりされなければ、どんな好みの嬢であってもスルーしてしまう小心者だ。

 その夜は自分とは不釣りあいの才色兼備な嬢を、潜在的に遠ざけてしまったようだった。

 結局、中堅の部下は、おっぱいだけが取り柄の嬢を場内指名した。


 ところで、たいした美人でもない私が言えた義理ではないが、私は不美人が嫌いだ。

 容姿そのものではなく、不美人が水商売のフィールドに安易に持ちこむ“性風俗的要素”が嫌いなのだ。

「ご飯!連れていってくださいよー!」

 不美人が中堅の部下を誘っている。

 店内だけでは満足させられないので店外(客と嬢が店の外で会うこと。客からすればデート気分だが、嬢からすれば苦痛な無料奉仕。 太客((大枚を叩く指名客))が相手なら接待)で補い、次回の指名につなげようと必死だ。

 だが、ボスと本指名の私が健全な仲であるのを差しおき、みずから“おねだり”して取った場内指名の枝と、勝手に遊びまわられては営業妨害だ。

 今回は、ボスが飲み上手なのが救いだが、相手が相手なら

「あいつらよろしくヤってるみたいだから俺たちも」

などと、私がとばっちりを食うはめになる。

 そうなった場合、不美人にどんな補償ができるというのか!?

 色や体を使わずやってきた、今までの私の地道な努力が台なしだ!

『枝につけてもらった分際で恩を仇で返すんじゃねー!私の指名席じゃ私のやり方に従え!水商売の掟に従え!このど素人が!』


 幸か不幸か、私の指名被りがなかったせいもあり、ボスは1セット延長(店により、ハーフで30分。1セットで45~60分)してくれた。


 中堅の部下は不美人と寝てしまっただろうか?

 次回の来店ですべてが明らかになるだろう。




 







 

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