第44話 引きたて役

 お局様は自分より気が利かない嬢をそばに置きたがる。

 気が利く嬢をそばに置いて指名客に心変わりされてしまわないように。


 お局様は自分より下品な嬢をそばに置きたがる。

 上品な嬢をそばに置いて指名客に心変わりされてしまわないように。


 お局様は自分より馬鹿な嬢をそばに置きたがる。

 聡明な嬢をそばに置いて指名客に心変わりされてしまわないように。


 お局様は自分より肥えた嬢をそばに置きたがる。

 スレンダーな嬢をそばに置いて指名客に心変わりされてしまわないように。


 お局様は自分より器量が悪い嬢をそばに置きたがる。

 美しい嬢をそばに置いて指名客に心変わりされてしまわないように。


 お局様は枝(指名客の連れ。指名客を木の幹に、連れを枝に例える)やヘルプ(本指名嬢が同伴((買い物や食事などをして客と嬢がいっしょに入店すること))や指名被りの際に手伝いをする嬢)につける嬢をつけまわし(嬢を客席につけたり、客席から外したりする係。俯瞰力が試されるため、ある程度のキャリアを要する)に神経質なまでに指図する。

 お局様にとって仕事がしやすいのは仕事ができる嬢ではなく、愚鈍ですべてにおいて自分より見おとりする嬢だ。


 お局様のこめかみに静脈が浮いている。

 お局様は必死だ。

 必死に嫉妬はするが、魅力的な嬢からは何ひとつ学ぼうとしない。

 自分と向きあわず、嫉妬に狂うだけのお局様はひどく醜い。

 体を張って客をつなぎ止めているというのに、何をそんなに焦る必要があるのか?

 枕営業の嬢の客が、枕営業ではない嬢に指名替えするのは、皆無に等しいではないか。


 お局様と新人が仲よさげに写真を撮っている。

 だが、新人のほうが一枚上手で、お局様を気遣うふりをして半歩下がって小顔効果を狙った。

 他人を利用する人間には必ず、揺りかえしがくるものだ。




 





 


 

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