第35話 ニューヨーク!
店が暇なときにしか声がかからない、コミコミ(通常のセット料金((店によって45~60分程度の基本料金。客席に備えてある焼酎やウイスキーなどのハウスボトルが飲み放題))よりも安いうえに税・サ込み。キャストのドリンク代が含まれている場合が多くキャッシュバックがなく、個人的な利益にはつながらない)専門の客がきた。
「うわぁー!あいつらだよ!」
「あーあ。まーたきちゃったかぁ。つきたくないなぁ」
嬢のあいだではしごく評判が悪く、噂には聞いていた。
いつもなら、右も左もわからない新人や売上が冴えない嬢たちが生贄になるが、私はその日、セカンドで初めてついた。
指名客を呼べないときの時給が我慢料でも、拒否することはできなかった。
「『今日は駄目ですか?』って〇〇(客引きの名前)に頼まれたんだよ」
「お近くで飲まれていたんですか?」
酒を作りながら訊く。
「そう。この辺でよく飲むから」
「お勤めがお近いんですか?」
「いや違う。ニューヨーク!」
「ニューヨークなんですか!?」
「まぁまぁ。だんだん見えてくるからさ!」
『焦るな!』
ってことらしい。
こちらは会話の自然な流れで訊いただけだが、キャバ嬢の情報収集力を警戒しているのか?神経質な男だ。
「何か飲みなよ!ただなんだから!好きなだけ飲みなよ!」
恥も外聞もない、サラリーマン特有のケチ自慢が始まった。
「ありがとうございます。頂きます」
店からの持ちだしでキャッシュバックはないが礼儀は通す。
私は店の負担を考え、低コストのドリンクを頼んだ。
「どこ出身?」
不躾な客の特徴で身なりが汚い。
「〇〇です」
「〇〇のどこ?」
『うぜーな!てめぇは勤務地すらはぐらかすくせにきわめて個人的な他人のルーツに迫んじゃねーよ!』
「まぁ、その辺です」
「その辺ってどの辺?」
『うぜーーー!!!』
「〇〇です」
適当にうそぶく。
「〇〇!ガキのころよく遊んだなぁ!」
「ご縁があるんですね。お近くのご出身なんですか?」
「いや違う。ニューヨーク!」
「なるほど!あの辺ですと……ニューヨーク一中のご出身ですね!」
「いや全然違う!だんだん見えてくるからさ!」
『何がだよ!?「ニューヨーク!ニューヨーク!」しつけーなら初志貫徹しろよ!クソつまんねーわ!』
「週どれくらい出てるの?」
「〇日です」
「結構出てるね!そんなに暇なの?」
「ん?お仕事ですから」
『金稼ぎにきてんだ!ばーか!仕事じゃなきゃてめぇみたいな男と駄弁ってストレス溜めてねーわ!』
「なんで週末は出ないの?男?」
『クソつまんねー発想!』
「いや。御指名のお客様がいらっしゃれば出勤しますよ」
1セットであっという間にお会計。
「会社もお近いのだし、またいらしてくださいね」
隣の素直な客について情報収集していた嬢が誘った。
「いやいや!ニューヨーク!〇〇さん!駄目だよ簡単に喋っちゃ!ユルいなぁ!」
あまりにもうっとうしいので
「だから!ニューヨークのどこだよ!」
さすがに最後にツッコんだ。
トラウマでもあるのか?
なぜ?そんなに歪んだ性格かは不明だが、人間素直なほうが誰も不快にしないし、隠れた敵も作らないので楽しいですよ。
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