第30話 張子の虎

「こいつたいして美人じゃないんだけどいい奴なんだよ!」

 最近拾った指名客が団体で来店し、私を“俺の女”とばかりに扱う。

 背中をぼんぼん!叩かれた。

 粗野、きわまりない……。 

 たかが二度三度指名しただけで“こいつ”呼ばわりする厚かましさに腹が立つ。


 こちらが下手に出ていると自分の人間レベルまで嬢を格下げし、バランスを取ろうとするやからはうんざりするほど多い。

 要は自信がないのだ。


「〇〇(私の源氏名)は頭がいいんだなぁ……」

 こちらが一般的な常識と経験値を覗かせただけで、がぜん、意気消沈して媚態を示してくる。

『俺が知らない話題には触れないで!無学なのがバレちゃうから!』

 心の声が聞こえる。

 ならば、初めから高圧的な態度はとらないほうがいい。

 泣かされて戻ってくるど素人嬢は別として、ベテラン嬢なら、そうされただけで相手が張子の虎とわかるのだ。


 嬢のパーソナリティを理解せず、安易に頭を撫でたり、体を触ったりするのもよくない。

 気が強いのか、弱いのか。

 姉御肌か、同級生タイプか、妹タイプか。

 利口なのか、馬鹿なのか。

 友だち営業か、色営業か、枕営業か。

 女性を観察しながら接することができない男は馬鹿に直結する。

 そうなれば、嬢にとっては軽蔑や我慢の対象でしかない。

 我慢しない私にとっては、教育や制裁の対象でしかない。


 嬢に嫌われたくなければ高圧的な態度は控えるか、向学することだ。

“綺麗に酒を飲む”とはさまざまな面で利口になることだ。




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