第27話 傾向と対策

 さて。

 近ごろの熟女系水商売のはやりはスナックやラウンジで、熟キャバは衰退の一途を辿っている。

 熟キャバ嬢には独自のネットワークがあって情報交換も頻繁だが、友人の勤める熟キャバもフリーの客入りが悪く、既存の指名客だけが頼りでどこも厳しい様子だ。


 プライベートでスナックに遊びにいくと、地域にもよるが、客入りや客質や客単価のよさに驚かされる。

 正直ホステスの容姿や仕事の質は熟キャバ嬢のそれには劣るが、彼女たちは安い基本時給(※基本スナックは時給制。それに本指名や場内指名や同伴やボトルやドリンクなどのキャッシュバックが付与されるのが一般的)でキャバクラのボーイの役割りも担っており、客席への誘導や料金説明に始まり、テーブルセッティング、接客、会計、バッシング、洗い物、閉店後の清掃と本当によく働く。

 スナックにはママがいるが、敏腕ママともなれば一人で数人分の労働力を担っており、鬼のように働いている(※まれに誰それの愛人で店番をさせてもらっているだけの無能で足手まといなママもいる)。

 ボーイの人件費がカットされている分、セット料金(ハウスボトル((客席に常備している焼酎やウイスキーなどの飲み放題のボトル))込みの基本料金。店により45~60分程度)が低めに設定されているうえ、指名料がかからないフリー客が多いので、ホステスがおねだりする一杯千円程度のドリンクがボンボン出るのはあっぱれだ。

 結果、高めのセット料金で嬢に一杯のドリンクも出さず、てめぇだけちまちまハウスボトルを飲むキャバクラのフリー客より単価が高い。

 スナックは客の心理をうまくついていると思う。


 熟キャバではフリーの客入りが悪く、既存の指名客につくだけで早あがりになってしまえば新規開拓もできず、いくら頑張って売上げても報酬には反映されない。

 売上制(指名売上により時給が変動する。系列や店により本指名の売上のみの場合もあれば、場内指名の売上も加算される場合もある)やポイント制(本指名や場内指名や同伴((買い物や食事などをして客と嬢がいっしょに入店すること))やボトルやドリンクやフードなどに付与されるポイントの上げ高により時給が変動する)で働く一般的な熟キャバ嬢にとっては、店にどれだけ長く滞在できるかが決め手なのだ。

 例えば、時給が三千円でも同伴で入店して勤務時間が三時間なら、優先的にオープンから滞在が許されている指名客をまったく持たない新人が、時給二千円で五時間勤務するのに一日の“基本報酬”では劣ってしまう。


 キャバクラは店長やボーイやエスコートや嬢のマンツーマンの接客で人件費がかかるため、むやみにセット料金を下げることはできない。

 だが、スナックやラウンジはホステスがマンツーマンの接客に満たないマイナス営業が馴染みの光景だ。

 キャバクラでマイナス営業をスナック営業と言うのはそのためだ。

 逆にホステスが余っていればキャバクラのように追加料金を発生させることなく、一人の客に二人三人とつけるのも独特なやり方だ。

 ラウンジはスナックよりも料金設定が高めで、ホステスの容姿や仕事の質も落ちついた傾向にある。

 ほかにも、キャバクラにスナックの要素を取りいれた“スナキャバ”がある。

 比較的新しい業態だ。

 系列や店によりマンツーマンの接客を取りいれていたり、いなかったりする。

 それにより、同じスナキャバでもセット料金に高低差がある。

 にぎわっているのはマンツーマンの接客を取りいれていない、スナック寄りのスナキャバだ。

 要はリーズナブルなほうがにぎわっているのだ。


 今どきの客はよほどのパラノイアでもない限り、難攻不落の玄人には命がけで金を落としたりしない、ということだ。


 SNSにはマッチングサイトが、街には相席居酒屋があふれている。

 男たちはお姉ちゃんのいる飲み屋にいくよりも安上がりに、恋活や婚活やパパ活目的の女たちは飲み屋で働く中間マージンを搾取されずに、相手を簡単に獲得できる。

 どこの男が好きこのんで、難攻不落の玄人がいる“飲み屋の作法”など習得しようと思うだろうか?

 水商売従事者が目を伏せていただけで“飲み屋の粋”など、とっくの昔に捨てさられていたのかもしれない……。


 恋活市場は三年後には577億円に達する見こみらしい。

 水の流れのように変動するからこその、水商売。

 次なる一手を打たねば……。






 



 

 

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