第24話 ハイエナ

 容姿端麗は当然で、勉強家で話題性に富み、愛想がよくて気配りができ、思いやりがあって感情が整っている。

 人気があるのには明確な理由がある。

 人気嬢は指名客の相手でいつも大忙しだ。

 なので、大切な上客の相手をしている嬢に、私の指名客の枝(指名客の連れ。指名客を木の幹に、連れを枝に例える)にフリー飛ばし(指名客についている嬢を抜いてフリー客につけること)してもらうのは気が引ける……。

 だから、私の指名席の枝にはいつも代わりばえしない“余り者”がつけられてしまう。

 容姿こそ平凡だが、不勉強で話題性に乏しく、愛想が悪くて気配りもできず、思いやりもなくて感情も乱れている。

 人気がないのには明確な理由がある。


 先日、私の指名客が接待で店を使ってくれたときのこと。

「いくつですか?血液型は?どこに住んでるんですか?どこ出身ですか?兄弟姉妹は?結婚は?奥さんは?子どもは……?」

 初対面にもかかわらず、私の指名客にプライベートを無遠慮に根掘り葉掘り訊く“余り者”。

 そこそこつき合いの長い指名嬢の私でさえ、遠慮して訊かないことを、だ。

「まぁ、いいじゃない……」

 穏やかで寛容な経営者は、それとなく“余り者”をたしなめた。

『おいおい!お前の担当は枝の主賓だろ!私の指名客にちょっかい出してる場合か!空気読めよ馬鹿女!』

「○○さんはダンディーで素敵ですね!」

 私は放置されていた主賓に話しかけた。

「格好いいでしょう!この方はね、すごい方なんですよ!」

 私の指名客が主賓を気遣う。

「えー!そうなんですかぁー」

 ようやく馬鹿女が主賓に向きなおったかと思ったら、私の指名客にしたように馴れ馴れしく触れた。

『おいおい!大切なお偉いさんにチープな対応してくれんな!頭ねーから色使うってか!?おとなしく頷いてろ、クズ!』


「ありがとうございました!」

 若いボーイの威勢がいいあいさつが聞こえた。

 待機席の嬢たちがいっせいに立ちあがり、人気嬢の指名客の送りだしをしている。

 私はつけまわし(嬢を客席につけたり、客席から外したりする係。俯瞰力が試されるため、ある程度のキャリアを要する)に目配せする。

「○○ちゃんとか○○ちゃんの御指名が帰ったら即行こっちにつけて!」

 あらかじめ、お願いしておいた。

 つけまわしが飛んできて馬鹿女を抜く。

『さっさと抜けろ、クズ!』

 馬鹿女は媚態を示して名残惜しそうな素ぶりを見せたが、私も私の指名客も主賓も引きとめようとしない(場内指名((フリー客から取る指名))しようとしない)。

「ごちそうさまでした……」

 馬鹿女が愛想笑いをして抜けた。

 人気嬢がトイレや一服や化粧直しや指名客に来店お礼の連絡をするのに、多少の時間がかかるだろう。

 しばらくはマイナス営業(マンツーマンの接客に満たないこと。スナック営業とも)だが、馬鹿女に大切な席を荒らされるよりマシだ。

『お前のせーで接待には不向きな低レベルな店だって思われんだろーが!営業妨害なんだよ!フリー席じゃ自力で指名取れねーからって嬢の口利きで枝に気に入られようって魂胆だろ!?おこぼれ狙うハイエナかよ!努力しねー甘ったれのサポートなんか死んでもしてやらねーわ!』


 その後、人気嬢についてもらって巻きかえしを図った。

 つけまわしが彼女を抜く前に主賓みずからの申しでで場内指名が入り、満足した様子で帰っていった。

「お疲れ様でした!ありがとう!助かったよ!完璧でした!」

 私は彼女を労った。

「お疲れ様でした!こちらこそ場内(指名)、ありがとう!」


 すべては彼女の努力の成果だ。

 主賓にお気に入りの嬢が見つかれば、折に触れ、主賓の一声で来店が決まる。

 彼女の華麗な引きの強さと卓越した営業力で、次回の来店も近いだろう。








 




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