第20話 保証期間

 年末の繁忙期、キャバクラのマンツーマンシステムで頭数を揃えるためだけに在籍を赦されていた嬢たちも、年明けには戦力外通告を受ける。

 ニッパチ二月の閑散期に向け、店が人件費を削減するのが主な目的だ。

 嬢たちに出勤調整(希望シフトより時間や日数を削減される)をかけ

『売上なき者、食うべからず。お前らはウチの店には不要だよー』

と暗にお知らせするのだ。

 一方で、戦力になりそうな新人を採用するのだが、まいどまいど、受けいれる側の在籍キャストの労力は半端ではなく

『どうか温厚で常識もキャリアもあって稼げる新人が入店して定着してくれますように……』

と願うばかりなのだ。


 新人には保証期間という名の試用期間がある。

 期間はレギュラー(週五日以上勤務)で一ヶ月程度、イレギュラー(週四日以下勤務)で二ヶ月程度だが、系列や店によりけりだ。

 その間、店は新人をさまざまなフリー客やヘルプ(本指名嬢が同伴((買い物や食事などをして、客と嬢がいっしょに入店すること))や指名被りの際に手伝いをする嬢)につけることで適性や得手不得手を観察し、ものになるか否かを見きわめるのだ。

 なので、保証期間中にぼさっとしていて成果(ドリンクや場内指名や本指名や延長を取ること)を上げられない新人たちは、あっという間に消えていく。

 一番面倒なのは

「私、キャリアがあるので……」

と無駄に自尊心だけ高く、屁理屈でテクニックや危機意識がともなわない新人たちだ。

 彼女たちは雇われてはお払い箱をくり返す、保証期間荒らしだろう。

 そんな腰かけはキャリアのうちには入らない。


 一方で、保証期間には甘やかしの要素もある。

 新人に高い時給で長々と勤務時間を与え、浴びるほどフリー客につけ、数打ちゃあたるの論法で指名を取らせてやることで

『あれ?お給料ってこんなに貰えるの!?指名ってこんなに簡単に取れるの!?私、この仕事(店)向いてるかも!?』

と勘違いさせて居つかせる店の魂胆がある。

 特にど素人の新人は短期的には客受けがいい。

 常連客には新鮮に、ウブな客にはウブに、ヤリ目(セックスが目的の客)には砂上の楼閣に見えるからだ。

 だが、こなれて鮮度が落ちてヤれないとわかると興味を削がれるのも早いので、ど素人の新人がビギナーズラックで気分をよくしている隙に仕事の基礎を叩きこんでしまえばいい。

 たとえ、ものにならなかったとしても、その後もヘルプ要員として重宝するからだ。


「新人なので(フォローを)お願いします」

 つけまわし(嬢を客席につけたり、客席から外したりする係。俯瞰力が試されるため、ある程度のキャリアを要する)にマッチングされる。

 ものになるか否かは同席すれば3分でわかる。

 生き残れるのはごくわずかだ。

 体入(体験入店)の今日か明日か、保証期間が終わるころか……。

 いずれ消えていくとわかっている新人に親切にすることの虚しさったら、ない。



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