第13話 婚活は老活

 正月。

『明けましておめでとう!昨年中は何かとお世話になりました。今年もよろしくね!』

 昨年、入店したばかりで指名客と恋仲になり、あっという間に退店して再婚した嬢からLINEがきた。


「今月いっぱいで辞めるから。もういっしょに住んでるの」

 そう打ちあけた彼女は一人で住んでいたボロアパートをさっさと引きはらい、客のマンションで同棲していた。

 若くに離婚して親権を取り、子どもたちのために人生の長きを労働に費やしてきたが、ようやく、専業主婦の座を手に入れたのだ。

 二人では手狭なので、昨秋、広いマンションに引っこし

『もろもろ落ちついたので遊びにおいで!』

と誘われたのだった。

 だが、だいぶ田舎に引っこんでしまったので、わざわざ出むくのは面倒だ。

 彼女がこちらに出てくる用事があれば、ついでにお茶でも飲もうということで話はまとまった。

 田舎から出てきて、田舎に出もどった彼女。

 想定外だっただろう。


 当時、待機中や送りの車中で

「水商売って難しいね。(ひとつの店に)長く勤めないと発言権も何もあったもんじゃない」

 地元のユルいスナックで働いた経験があるだけで、ほぼ素人だった彼女は愚痴た。

 確かに、一理あるのだ。

 長く勤められるのは指名客や売上をキープしつづけているからであって、何もしない“給料泥棒”やメンヘラの往来が激しいなか、ちょっとした発言権を持つことになる。

 だが、それは仕事をスムースにする“ツール”であって我儘ではない。

 まれに我儘なだけの嬢もいるが、人柄をともなわない以上、指名客や売上がキープできなくなれば、あっという間にお払い箱だ。


 彼女は自分の“伸び代”の限界を悟ったのだと思う。

 初めから恋活や婚活の匂いぷんぷんで入店した“腰かけ嬢”ではなったので、途中でシフトチェンジしたのだろう。

 

「私もいろいろ限界だった。もう働きたくなかった。だから彼は救世主なの」

 先日、彼女がこちらに出てくる用事があったのでお茶した。

「今はまだ愛せないけど……」

“中年の危機”というのがあるが、私たちにとっては“中年女性の危機”だ。

 気力や体力が落ちて仕事量や収入が減る。

 かといって、波瀾万丈に生きてきた身の上、潤沢な貯蓄があるわけでもない。

 頑張って取りもどそうとすれば、今度は婦人病が顔を出す。

 将来不安はつきない。

 女一人で生きることに限界を感じる。

 そこに“ちょっと手ごろな男性”が現れたら……。

 なびいてしまっても、誰も非難できないではないか。

 愛情なんて、あとづけでいい。

 向こうだって“ちょっと手ごろな女性”で妥協したのだから、お互い様ではないか。


「幸せになってね」

 私は未来の自分を重ねあわせるように心から祝福した。


 

 

 


 

 

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