第8話 クリスマスイベント

 クリスマスイベントが終わった。

 レギュラー(週五日以上勤務)には三日間で三本以上の、バイト(週四日以下勤務)には二本以上の指名本数ノルマが課され、売上順位に応じて一位から三位まで褒賞金が出る。

 系列店を多く抱えるグループだが、ほかのグループとは違い系列店全体の売上順位ではなく、店舗ごとの、しかもイベント三日間限定の順位に食いこめば褒賞金が出る仕組みなので、やりがいがある。

 そもそも、営業スタイルや熱量や体力が異なる、系列店の若いキャバ嬢たちと比べられてしまっては立つ瀬がない。


“ノルマを確実にクリアするためにイベント以外での指名客の呼びひかえをする”

 指名客が手薄な嬢はそう考え、

“イベントに太客(大枚を叩く指名客)を集中させて褒賞金を頂く”

売上がある嬢はそう考える。

 イベントを打つと客が集中してウェイティング(満席で客を待たせてしまうこと)を出してしまったり、最悪、帰らせてしまったりする。

 嬢の思惑でイベント前後は来客が一気に減るし、ひと月の嬢の売上はある程度決まっているので、イベントを打ったところで店全体の売上が伸びるとも限らない。

 店的には、

『フリーで拾った客を本指名で呼ぶのにいい口実になるでしょう!』

と言うことらしいのだが……。


 三日間、いい歳したオバサンたちがサンタクロースに扮した。

 イベント中のコスプレは強制だ。

 黒服(男性従業員。黒いスーツを着用している)はトナカイやもみの木に扮するが、コスプレにアンチな嬢が扮したりもする。

 ボーイがキッチンで金のモールのついた三角帽を被り、指名客用にふる舞うサービスのオードブルを作っていた。

『面倒だし、熟女のコスプレってイタいよな……』

 よほどのナルシストでもない限り、誰もが思うだろう。

 私は露出が少なく、ほかの嬢と被らないデザインの衣装を選んだ。

 ビスチェがうまく着られず、ヘアメ(イク)さんに手伝ってもらう。

 「キツめに着たほうが綺麗に見えるんだよね……」

 ビスチェをグッと上げて背中の編みあげを絞る。

「キツくない?」

「大丈夫です!」

「これぐらい締めておかないとあとで落ちてきちゃうから」

 上手だ。

 脇の贅肉を移動させ、おっぱいに捏造してくれた。

 プロの技はすごい!

 

『……にしてもこんな格好、誰が喜ぶんだ?』

「頑張るねぇー」

 ぼっちなモテないフリー客にさえ冷やかされ、

「赤のドレスでもいいんじゃない?」

“シックな私”を求める指名客の冷たい視線にさらされる。

「ですよねー」

 私のような平凡な容姿のオバサンは、コスプレが似あわないと相場が決まっているのだ。

 冷静に店内を見まわせば魑魅魍魎が跋扈していた。

「プロレスラーなの?」

 大柄で尻のデカい嬢が自信満々で着た露出系サンタは、フリー客にめった打ちにされている。

 汚いバアサンに言葉を失う客もいる。

 小柄で一重の“平たい顔族”の嬢だけが、見事にサンタクロースを着こなしていた。

 白いキャンバスと同じで描きがいがあるのだ。

 美女は完成された名画と同じで上塗りするのは逆効果だ。


 三日間連続で来店する予定の奇特な?指名客のために用意した別の衣装は、

「明日もそれでいいよ」

の一言で却下された。


 イベントが終わり、更衣室に順位が貼りだされた。

 いつものナンバーワンはイベントでもナンバーワンだ。

 私は三位に食いこんで褒賞金を貰った。

 三日間でノルマを果たせなかった嬢たちには、指名一本のロスにつき五千円の罰金が課された。

 遅刻や早退や当日欠勤などの罰金も含め、

「給料袋が空っぽです!」

なんて嬢もいた。

 

 私が貰った褒賞金は嬢たちの罰金だ。

 店が足を出すことはない。

 キャバクラのからくりとは、そういうものだ。


 



 


 

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