第7話 直引き
キャバクラ業界では年末に退店する嬢は多い。
世間でいうところの年度末みたいなものだ。
最後の繁忙期にスパートをかけ、また一人、夜の世界を揚がった女がいる。
庶民的で気遣いができる女で、同僚としては格好だったが、入店してすぐに指名客がついたのは不自然だった。
庶民的な女に高価なワインやシャンパンを卸す客がつく……。
そこには必ず裏があった。
女は品性に憧憬し、それがあるようふる舞っていたが、生まれそだった環境や土地柄から民度の低さを隠蔽しきれずにいた。
私とはビジネスライクな関係だったので、出勤前や閉店後に、やれ報告会だ、やれ慰労会だと、かこつけてはいっしょに飲んだ。
そんななか、酔った女が次々に吐露したのだった。
「A客とは店外(客と嬢が店の外で会うこと。客からすればデート気分だが嬢からすれば苦痛な無料奉仕。太客((大枚を叩く指名客))が相手なら接待)した。B客とはキスした。C客とは……寝た」
「あー(やっぱり)」
女は私の反応の薄さに驚いたが、私がそれを見ぬいていたのを見ぬけなかった女が滑稽だった。
私に限らず、同業者なら、水商売の世界で体を張る異臭のする女を嗅ぎわけるのは容易だ。
貢ぎ癖のある女のことだ。
今後は“C客”から直接金を引っぱり、甲斐性のない愛人とのデート代やホテル代に充当するのだろう。
熟キャバなんて……。
指名客を呼んで金を使わせたところで、嬢の取り分はわずかだ。
だが、直接引けば総取りだ。
体を売れば“お手あて”も、はずむだろう。
美容代や衣裳代もかからない。
ノルマや競争などのプレッシャーもない。
面倒な人間関係もない。
何より、クズ客の相手をするストレスから解放される。
店が引きあわせてくれた客なのだから、店に恩義があってもよさそうなものだが、所詮、人は金の前に屈服してしまうのだ。
店の監視がない分、選ぶ相手によっては危険な目に合わないとも限らない。
それでも、直引きに堕ちていく嬢のなんと多いことか……。
女に自己責任の覚悟が見てとれる以上、批判や説教はしない。
まして、そうするほど、女は私にとって大切な存在でもない。
だが
「こんなことをするのは初めて……」
とか
「いい人だから断れなかった……」
とか、醜い体裁は不要ではないか。
娼婦なら娼婦らしく、毅然と生きればいいではないか。
グッドラック。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます