その6 ゲームに必要なもの

「僕が生まれたのは十六世紀末のフランスさ。あ、子猫が生まれたのはもっと前だよ。あくまで子猫の一部である僕こと黒猫が生まれた時期という事で。

 まあ当時は魔女狩りというヒステリーの真っただ中でね。いやあ、随分色々な死を見てきたよ。僕みたいな本当の魔女はあんなので捕まりはしないのにね。ヒステリーの果てに全滅状態になった村なんてのもあったな。


 言っておくが魔女狩りは何も当時のヨーロッパに限った事じゃ無い。元々古代ローマでも魔女狩りに似たことは行われていたしさ。文革とかクメールルージュなんてのは国家権力と結びついた結果もっと酷い事になっていたりする。

 ただ実際に色々自分の目で見て実例を積む事はさ、そんな史実上の知識とか歴史的な見方とかは別物なんだ。数百年を生きる魔女だって存在そのものは個としての人だしさ。


 そんな訳で色々な人間の負の面を見て記憶として積み重ねてしまった子猫は、時折全てをリセットしてしまいたい衝動に駆られる事になった。つまり僕の誕生という訳だね」


 言い分はわからなくもない。

 ただ疑問はある。

「でも少なくとも今の日本はそういう面はあまり無いだろう。何故今、悪い魔法使いとして活動を始めたんだ」


「活動を始めたのは今じゃ無いさ。あちこちで時折リセットかけようと試みたりする。ユーゴで、コンゴで、シリアで。時にはアメリカ辺りでも事件を起こしたりしたな。あそこは人口が多い分問題も大量で、色々爆発させやすかったしね。

 ただそんな僕の活動に子猫が疲れてきたんだ。もういい、もう沢山だって。それで尻尾を掴まれたのが今というだけさ。

 まあ、そんなに簡単に捕まる気も無いけれどね」


 なるほど。

「世界各地でリセットしてきた訳か」

「そして日本にもやってきた。そういう事さ」


 話も終わりに近づいた。

 そんな気配がぷんぷんする。


「さて、レッドファイトと言う前にひとつだけハンデをあげよう。魔法一発分だけ先に打たしてやる。子猫の一部である僕だけれど子猫の地の魔法と僕の人の魔法、僕は全てを使う事が出来るからそのつもりで」


 そう来たか。

 俺自身はもう覚悟が出来ている。

 使うべき魔法ももう思い浮かんでいる。

 でもその前に聞いておきたい事がある。

「戦闘の前に質問をひとついいか」


 彼は頷く。

「答えられるものならば」


「何故俺の魔法を育てるような真似をしたんだ。騎士団の件も静枝さんの件も、今では俺の魔法を育てる為だったような気がするんだ。ひょっとしたら最初、俺が事故で死んだのまで含めて」


 彼は笑う。

「ゲームには敵が必要。それだけのことさ」

「本当にそれだけか」


「そこから先は答えられない質問だな」

 彼はそう言った後、右腕を大きく振り上げてそして下ろす。

 右手にはいかにも年代物という感じの大型の魔法杖が握られていた。

「さて、あまり時間をとるとレッドファイトを宣言するぞ」


「もう一つ質問、他に方法はなかったのか」

「あったかもしれない。でも今となっては意味は無いね」


 そうか。

 なら仕方無い。

 俺は思い浮かんだ魔法を全力で唱える。

『時間退行魔法、可憐幼女化プラスロリキュートプラス!』

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