その5 レッドファイトはまだ早い

「やあやあやあ、とうとう見つかってしまいましたね」

 何でも無い口調でダルタニャン先輩はそううそぶく。

 ちなみに今日は男子制服姿だ。


「会長、なんでこんな事になったんですか!」

 和花ちゃんの悲痛な叫び。


「ガラスのように脆く壊れやすい仮面、人は素顔を隠してそれをかぶる」


 ちょっと待った!

 その台詞微妙に聞き覚えがあるぞ。

 イントネーション含めて。

「それはガラスの仮面の導入部のパクりです」


「お呼びでない! こりゃまった失礼いたしました!」

「それは植木等、古すぎて誰もついてきません」


「はははすまない。こういうネタはたまに披露しないと忘れるのでね」

「古すぎてみんな憶えていません」

「魔女にとって五十年くらいは最近なのだよ」


 なんだか雰囲気がおかしくなった。

 さっきまでシリアスだったのに。


「ああ朝食で牛乳かけて食べる奴か」

「それはシリアルです。人の心を読んでギャグにしないで下さい」


「製造番号とも言うな」

「シリアルナンバーです」


「割れを落としたけれど使えない!」

「それもシリアルナンバー!」


「日本新薬株式会社の勃起不全治療剤かい」

「シアリス錠!」


「ガンダムのくせにグリムゲルデにやられた奴」

「それはキマリスです!」


「いぢめる?」

「シマリスくんです!」


 いい加減疲れた。

 見るとダルタニャン先輩も息をついている。

「良くついてこれるなここまで。呆れるぞ全く」

「御題を出す方がよっぽど酷いです。あと微妙にどれも古いです」


 まったく。

 なお和花ちゃんは箒の前部分で完全に固まっている。

 急変した状態についてこれなかったらしい。


「まあ冗談はともかくとしてだ。現実だの事実だの歴史だの思い出だのなんてまさにシリアルなのさ。シリアスかつコミカルなものという意味で。笑い飛ばさなければやっていられない」

「それが騒動の理由ですか」

 先輩は軽く頷く。


「糞ゲーをプレイした時、思わずリセットボタンを連打したくなった事はないかい。それと同じさ、リセットしたくなったんだよ。子猫の中のリセットしたいという衝動、それが僕、黒猫さ。

 まあ箒を降りなよ。和花がいるなら僕が逃げるのも不可能だしさ」


 俺はちょっとだけ考えた後結論を出す。

「和花ちゃん、箒を下ろしてくれ」

「でも」

「和花ちゃんは乗ったままで。何時でも飛べるようにしていてくれ」


 今現在のダルタニャン先輩には襲ってくるような気配は無い。

 それにこの態勢ならいざというとき和花ちゃんだけでも逃げる事が出来るだろう。


「いいのかい、僕の言葉を信じて」

「降りろと言ってそうきますか」

「冗談さ。まだ攻撃する気はない。戦闘になる前はちゃんと宣言する。レッドファイト! とでもさ」


 おいおい。

 よりによってそれかよ。

「赤い通り魔ですか」

「問答無用って感じでいいだろ」

 どういう趣味だよ。

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