その4 目標捕捉
『この次、アトス先輩の攻撃か防御に穴が開いたら迷わず全速力で通り抜けて』
この声は彩葉ちゃんだ。
『どういう事だ』
『性格や見てくれはともかく、魔法という意味ではアトス先輩が三銃士筆頭なのは間違いないわ。魔力も魔法威力も段違いで強い。ヘタレ攻め担当だけれどね。あの人の魔法使いとしての欠点はただ一つ、とろくて遅いことだけ。
だからとにかくいけると思ったら全速力で行って』
それ以上聞く間も無く正面にアトス先輩らしい人影が見えた。
『
いきなり前方を氷の壁が塞ぐ。
咄嗟に箒を止めようとする俺達に彩葉ちゃんの声が響いた。
『速度を緩めないで!プラズマ・フュージョン!』
氷壁の一部が溶けて穴が開く。
だが氷が穴を塞ごうと迫ってくる。
南無三!
加速しまくって何とか穴を抜ける。
反応できないでいるアトス先輩の更に先へ。
『抜けられたのは!』
『美園さんが壁の向こう側です。魔法に使った分だけ加速力が足りなかったようです。なお本人もわかっていたようでぶつかったりはしていません』
彩葉ちゃんもいなくなってしまった。
これで三人、俺と同クラスの三人がいなくなった。
残っているのは俺の他に貫井先輩、静枝さん、そして俺の箒の前席にいる和花ちゃんだ。
『まもなく
『
『ええ。彼とか悪い魔法使いとか呼ばれている存在です。黒猫は不吉の象徴、それで彼は好んでそう名乗っているようです。
そろそろ箒のコントロールは和花さんにお任せしたほうがいいでしょう。鈴木君は黒猫と決着をつける事だけに集中して下さい』
『お兄ちゃん、運転を代わります』
和花ちゃんが俺の代わりにアクセルとブレーキに手をかける。
決着をつける事に集中しろ、か。
決着をつける。
いやな感じだ。
今ならわかる。
俺の魔法が攻撃魔法的な発現をせず、服を脱がせたりする事に特化した理由。
それは俺が戦いたくないからだ。
勝者と敗者を決めたく無いからだ。
決める事が怖いからだ。
一つを選ぶと決める事は他を選ばないと決める事。
二つのうち一つしか選べないという事は残り一つの可能性を消し去るという事だ。
以前の俺自身が壊れたきっかけ、今は思い出したくない過去の失敗。
俺の決断で壊してしまった可能性。
痛い。
わかっているんだ。
今はそんな事を考える余裕が無い状況だという事は。
迷いでより多くのものを失わせる権利など俺にはないという事は。
『目標座標、確認しました』
『じゃあお願いね』
先輩二人の姿が消える。
残ったのは俺と和花ちゃんだけ。
和花ちゃんが操る箒はもはや常人の感覚では理解できない空間を突き進む。
箒の速度は速いのか遅いのか。
何時間も飛んだのかほんの数秒なのか。
感覚がわからない状態で、それでも和花ちゃんは箒を操る。
そしてついに、俺達は彼を視認した。
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