その5 悪魔の印形

 そして通路は行き止まりを迎えた。

 地面に光る砂で魔法陣か紋様かそんなものが描かれている。

「アスモダイの印形シジルか」

「何ですかそれは」

「色欲を司る大悪魔」


 なるほど。

 教室での皆さんの様子を考えると大いに頷ける。


「さて、叩き潰すとするか」

 ちょっと疑問。


「悪魔の紋章なんて叩き潰していいんですか」

「勿論。実際に悪魔なんてものは存在しないからな。悪魔の名前など人の精神面での力なり罪なりを表象する目印に過ぎない。神が存在しないのと同じくらい悪魔なんて存在しないのさ。魔女が言うから間違いない」

「状況的に何かのアイロニーのような感じになってしまいますけれどね、事実です」


 悪魔なんて存在はいないのか。

 まあ長年生きてきた先達がそう言うからには間違いないだろう。


 ポカッ。

 何故か杖で頭を叩かれた。

「何か失礼な事を考えただろう」


「偉大な先達の言う事だから信用しようと思っただけですよ」

「年齢の事を考えなかったか」

「ちょっとだけ」


 ポカッ。

 もう一撃やってきた。

「まあ今回はここまでにしておいてやる。さて、解放すると同時に叩き潰すぞ。心構えはいいな」

 何だかわからないが俺も身構える。


「エクソーシザマズティー……」

 北町先生が何か呪文を唱え始めた。

 目の前の景色が歪み始める。


 うっ。

 何だこれは!

 先生達が見えなくなった。

 代わりに彩葉ちゃんが上下黒色革製のピチピチ衣装を着けて出てきたぞ。

 勿論本物じゃ無い事はわかっている。

 ただの幻像だろう。


 衣装は何故か両胸の中央部分と股間の一部は穴が開いている。

 うんイヤらしいけれど彩葉ちゃんには清純系が似合うと思うんだ。

 俺の好みの服装では無いな。


 幻像の彩葉ちゃんが右手に持った鞭で襲いかかってきた。

 どうせ幻像だろうと思って胸とか股間とかを観察するにとどめる。

 鞭が俺の身体を打った。

「痛えっ!」

 やばい本当に痛い。

 これは幻像だろ。


「気をつけろ。空間の性質上食らったダメージは本物になるぞ」

 朱莉さんの言葉がどこからか聞こえる。

 声だけで姿は見えない。

 これが本当の、『ほんにお前は屁のような』だな。


 痛い!

 何か見えない攻撃が襲ってきた。

「今失礼な事を考えただろう」


 おいおい見えない処からなんて反則だろう。

 まあ取り敢えず敵は朱莉さんじゃ無い。

 目の前の彩葉ちゃんだ。

 敵とわかれば後は簡単。

 侵略して征服し尽くすまでだ。


『風加速!』

 俺は一気に彩葉ちゃんの背後を取る。

 そのまま自分のズボンをパンツごと下げて一気に腰を押し上げ……えっ!

 すかっ。

 腰が空を切った。

 彩葉ちゃんがいなくなっている。

 おかげで俺の下半身が丸見えだ。

 何故!


「何をやっている。こっちは叩き潰したぞ」

 残念、あと一歩というかひと突きだったのに。

 そう思って前を見ると先生方2名の白い視線。

 気まずい空気が漂いまくる。


 俺は取りあえずズボンを上げ、服装を整えた。

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