その3 噴水前の異空間

 これ以上は教える事は出来ないか。

 なら行動あるのみだ。

 非常口から外に出て箒にまたがる。

 上空からなら何らかの状況がわかるだろう。


 上昇開始。

 非常口から少し離れたところで喜平君が倒れているのが見える。

 女性陣に襲われそこまで逃げたところで睡眠魔法に襲われた模様。

 俺程衣服の状態が荒らされていない。

 ごく初期のうちに脱出に成功した模様。

 何せ奴は心は女子でも腕力は並の男子以上だからなあ。

 体育でよく組にされる俺はよく知っている。


 さて、学園がひととおり見える高度になって一つ魔法を思いついた。

『捜索!』

 朱莉さんの居場所を探す。


 思ったより近い。

 学校の本校舎玄関前、噴水のところだ。

 箒を上昇から急降下へ。


 噴水前には一見誰もいない。

 でも俺にはわかる。

『展開!』

 折りたたまれていた空間の入口が見えた。

 遠慮無く中へ入らせて貰う。


 存在そのものは複雑な人工魔法空間だが入ってしまえば簡単。

 平坦な一本道だ。

 まっすぐ行くと少し広い空間に出た。


「お前、どうしてここに」

 朱莉さん、いや鈴木先生と北町先生がいた。

 ちなみに北町先生はいかにもという感じの年齢不詳系美人の英語の先生だ。

 俺の好みのタイプじゃないがまあその辺は今回置いておこう。


「教室が酷い状態になったんで逃げてきたんですよ。それでこっちは」

「取り敢えず封印術式の一つを外したところだ。歪みの一部が開放されたから、そのせいで外にも影響が出たのだろう。すぐに戻るから教室に帰っていろ」


「いえ、ここは鈴木君に同行してもらった方がいいでしょう」

 北町先生はそんな事を言う。

「まだここの空間は解けていない。あと三つは術式を外す必要がありますから」


「わかった。でも無茶はするなよ」

「わかりました」

 そう言って先生達がいる場所の先を見る。


「分かれ道ですか」

「ええ、ここの結界を破ったら出てきました。見える二つの他、空間をずらしてあと五つほど道があります」

「恐らく奇門遁甲の八門と通じているのだろうな。奇門遁甲は本来地の方位術だから。道はそれぞれが開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、死門、驚門の八門で、景門がおそらく今来た道を引き返す事だ」


 そんな事を言われても奇門遁甲なんて知識は俺には無い。

 取り敢えず思いついた魔法を試してみる。

『展開!』

 さっきと同じ折りたたまれた空間を確認する魔法だ。


 新たな風景が現れた。

 道以外に隠された色々な空間だ。

 ポケット状にあちこちに隠されている。

 チラリと何かが見えた気がした。


「ご苦労!」

 朱莉さんが何か魔法を飛ばす。

 ボッと何かが見えた方向で炎が上がった。

 ふっと広場が元の通路に戻る。


「道を見せる事で仕掛けを隠していた訳か。こっちが考えすぎていたな」

「今のは」

「セーマンドーマンが描かれた手ぬぐいだ。奴が術を展開するのに使っている」

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