その2 関与できない彼女
「スリープ」
わやくちゃな状況の中不思議とその声は通って聞こえた。
一瞬後、女性陣の攻撃が止む。
ほっとしたのもつかの間、倒れそうになる女子達を何とか両手その他で支える。
結果的には全員床に倒れたけれど、頭を打ったりしたのはいないだろう。
ほっと一息ついた俺の視界に写ったのは倒れ込む女子生徒達と先生。
倒れて主がいなくなった喜平君の席。
そして一人だけ変わらず席に座って、そしてこっちを見ている女子生徒。
三つ編み二本のお下げ髪。黒縁ちょい太めの眼鏡。
中肉中背、中おっぱい。
知っているけれど今のところ接点が無かったクラスメイト。
学級委員の恋ヶ窪さんだ。
「こうして話をするのは始めてですね、鈴木君」
うん、今の俺ならわかる。
恋ヶ窪さんは魔女だ。
それも知佳とか翠さんのレベルじゃ無い。
下手をすれば朱莉さんレベルかそれ以上。
「皆さんには広範囲睡眠魔法で眠っていただきました」
それはわかる、でも。
「何故俺を起こしたままにしたんですか」
「この事態を打開するためには鈴木君が必要だからです」
「でも俺は魔法使いとしては初心者ですよ」
「それでも能力的に替えが効かない存在なのです」
彼女は席から立ち上がる。
「例えば今皆さんがおかしくなった際、鈴木君は平気でしたね」
そう言えば。
でも恋ヶ窪さんも平気だよな。
「私は事象が干渉しない魔女。そのかわり私は事象に関与できません。出来るのはせいぜい事象本流に無い彼女達をこうして眠らせる事くらいです。
でも鈴木君がこの空間の歪みに影響を受けなかった理由は別です。鈴木君に天地人全ての魔法が干渉した結果、術式に影響されない体質になったからです」
確かに俺はアレやコレで結果的に魔法属性を一通り手に入れてしまった。
「この異変はある魔法使いの仕業です。正確にはある魔法使い、仮に『彼』と呼びましょうか。彼の作った魔法術式のひとつを鈴木先生と北町先生が破壊した事で、歪みが一時的に増大した影響を受けたものです」
一時的にか。
「それならある程度時間が経てば全ては元に戻るんじゃ無いですか」
「残念ながら鈴木先生と北町先生ではこれ以上術式を破る事は出来ません。知識を操る天の魔女の鈴木先生でも空間を操る地の魔女北町先生でも超えられない術式。それを操るのが地の魔法使いにして人の魔法使いである彼なのです」
彼の正体を確認してみる。
「彼とは、いわゆる『悪い魔法使い』ですか」
「ええ」
恋ヶ窪さんは頷いた。
「彼は元々は地の魔法使いです。でもある事故をきっかけにもう一つの力、人の力を身につけました。
それ故に先生方は彼の術式を破る事が出来ません」
なるほど。
でも、それならだ。
「恋ヶ窪さんは彼を知っている。ならば彼を捕らえる事も出来るのではないですか」
彼女は首を横に振る。
「私は基本的に何事にも関わりを持てない魔女なのです。本来私は因果に関われない存在。こうやって睡眠魔法をかけたり鈴木君に説明したりするのがやっとという状態です。それ以上は手を出す事が出来ない。例え人類が滅びようとも。
でも鈴木君は違う。義体で生まれ変わったとは言え、世界を動かせる存在です」
恋ヶ窪さんの言っている事は正直俺にはよくわからない。
でも恋ヶ窪さんがこれ以上この事件に立ち入らない事は理解した。
「わかりました。それで何処へ向かえばいいですか」
「私はこれ以上教える事ができません。でも鈴木君は何処へ行くべきかわかるはずです。それではこれで。私はここで全てが終わるまで待っています」
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