第7章 魔法使い彼と死の欲望
第23話 歪んだ地形
その1 不穏な気配
放課後。
「最近、火事が多いような気がするな」
学校の外からサイレンの音が聞こえる。
「本当、多いよね。ここ毎日サイレンの音を聞いている感じ」
「普通火事は冬に多くなるものなのだけれどね」
翠さんも頷いて、そして付け加える。
「火事だけじゃなくて事件も難か多いみたいよ。変質者に注意って学校でも回っているし、畑無町では先週ナイフ通り魔も出たしね」
確かにそういえばそうだな。
「そろそろ五月病の季節だからかな」
GWが終了したばかりだし。
階段を登って第二講堂へ。
入ってみるといつもと様子が違う。
ピアノの用意もしていないしマットを出したりもしていない。
ただ机とホワイトボードがあるだけ。
「今日はいつもの活動の前にお知らせとお願いがあります。だいたい揃うまで座って待っていて下さい」
副部長の内藤先輩がそう指示する。
何だろう。
今までに無い状態だ。
俺達のあとに一年生が三人程入ってきた後。
貫井先輩となんと朱莉さん、いや鈴木先生が入ってきた。
何事だろう、いったい。
貫井先輩が座った後、鈴木先生が俺達の前に立つ。
「さて、唐突だが悪いお知らせだ。最近火災や事件が多い事は皆感じていると思うが、その原因が魔法的なものである事が判明した」
いきなり何だって!
「どういう仕組みかはまだはっきりしないが、だいたいこの周辺30キロ圏内の空間が魔法的に歪められているらしい。繊細な人間や元々歪んでいる人間等はこの歪みで過剰なストレスを感じるそうだ。火災や事件もその影響らしい。
残念ながら今のところ歪みの原因は不明だ。ただ人為的に行っている事は確かだ。情報魔法でお馴染み『悪い魔法使い』の魔法紋が検出されたからな。つまりは奴の仕業だ。
今のところ特に対策等の具体的指示は出ていない。でももしも自分がいつもと違う事を考えがちだとか、悪い事ばかり考えてしまうという事があったら早急に保健室の泉先生に相談してくれ。泉先生は魔法使いでカウンセリングの魔法も持っている。他にも日常から出来るだけ事故に巻き込まれたりしないよう、充分に注意して欲しい。
なおこの連絡は校内の他の魔法関連の課外活動でも伝達する予定だ。また何かこの件で情報があったら校内の魔法を使える先生だれでもいいから連絡して欲しい。
伝達事項は以上だ。何か質問はあるか」
眼鏡をかけた普段見ない先輩が手を挙げる。
「影響の出方等に何かパターンはありますか」
「個人によって出方が異なるとしか言いようが無い。全く影響が出ない人も多い。でも魔法使いは大体において普通の人間よりセンシティブだからな。充分気をつけて、何か自分が変だと思ったら泉先生か、でなければ話しやすい魔法使いの先生にでも相談してくれ」
常に変な人間の場合はどうやって見分けるのだろう。
例えば知佳の妄想とか。
そんな下らない事をふと考える。
「よし、質問が無ければ以上だ。今のところはまだ部活の制限等も無いが、もし事態が急変すればその辺も考慮する事になるかもしれない。それだけは心してくれ。
あと一年の鈴木、お前は空間魔法を使えるからちょっとこの後手伝ってくれ」
何だ、何の用だ。
でもまあ仕方無い。
「じゃあちょっと行ってくる」
「それじゃまたね」
「ほいほい」
そんな訳でカバンを持って鈴木先生こと朱莉さんについていく。
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