その2 予想外の再会

「お茶会と言っても堅苦しいものじゃありません。単にお茶と菓子を愉しみながら話をしようという会です。この部屋の外では色々言われているようですけれども」


 香りだけで高そうだとわかる紅茶が注がれる。

 色も完璧だ。


「しかしまさか俺が呼ばれるとは思いませんでした」

 これは俺の本音だ。

 いくらダルタニャン先輩が生徒会長でも俺を呼ぶ筋合いは無いだろう。


「実は鈴木さんを呼んだのは私ではありません。鈴木さんに会いたいという方がこちらにおりまして。中等部の1年生で今年の中等部生徒会の補佐をやっていただいている日吉さんです。見覚えありませんか?」


 俺のすぐ隣の席に座っていた中学生としても小柄な少女が立ち上がって一礼する。

 うん、この子には間違いなく見覚えがある。

 でも何処か思い出せない。

 校内では無いし……

 あっ!

 まさか。


「何故わかったんですか」

 あえて何をどうとは言わない。

 何せ今の俺は彼女に会った事は無い筈だから。

 会ったのは俺が死んだあの事故の時。

 俺が死ぬ直前、車の進路から引っ張って助けたあの子だ。

 あの時は当然前の俺の身体だったし気づく筈が無い。

 でも、ならば何故。


「日吉さんも魔法使いなんです。ですので鈴木君の外見では無く魂の形を憶えていたそうです」


「ずっと心配だったんです。対処してくれた魔女の人も何とか生き返らせるからと言ってくれていたんですけれど、でも酷い状態で。絶対私の方が助からなかったのに、私のせいで逃げられなくなっちゃって……」


「あの時は乱暴に飛ばしてしまってごめん、大丈夫だったか」

 俺もずっと気にはなっていたんだ。

 まあ車のコースからして大丈夫だとは思ったけれど。

 でも尻餅の付き方が悪かったりしたら大変だし。

 車が変則的な動きをしなかったとも断言できないしさ。


「私は全然。お兄さんが助けてくれたから。でも……」

 何だか泣きそうな感じの彼女。


「大丈夫。俺はこのとおり無事だしさ」

「でも私のせいで……」

「あれは悪い魔法使いのせい。どっちにしろ俺は逃げ切れなかったしさ」

「でも結局人生が変わってしまって」

「今の方が楽しい人生送れているしさ。問題は全く無い」

 それにこの子も無事だったようだし、めでたしめでたしだ。


「本当に、本当に大丈夫なんですか」

「勿論本当だ」

「信じていいんですね」

「勿論」

 次の瞬間。

 彼女が俺に突っ込んできた。

 そのまま尾根の制服の胸に顔を埋める。


「ずっと心配だったんです。どう見てもあれじゃ助からないし、私のせいで死んじゃったんじゃないかって。お礼も何も言えないままだし何処の誰かもわからないし。事故は無い事になったから調べる事も出来ないし。

 でも良かったです。良かったです……」


 思ってもみなかった展開だ。

 そこまで思ってくれていたのか。


「逆に申し訳なかったな」

「お兄さんは悪くないんです。でも良かったです……」

 何かもう止まらない感じだ。

 しょうがないなと思いつつ彼女の背中を軽く撫でてやる。

 今日は別にイヤらしい意図とかは無しだ。


「そんな訳でたまには此処にも顔をだしてやってくれないか。魔女と関係者限定のお茶会は月終わりの木曜日午後四時からやっているから」

 嫌とは言いにくい雰囲気だ。

 まあいいか。

「お邪魔じゃなければ」


「本当に来てくれますか」

 日吉さんが顔を伏せたままそう聞いてくる。

「ああ、勿論」

「約束ですよ」

「はいはい」


 たまにはこういう日もあっていいだろうと俺は思う。

 日吉ちゃんも可愛いし。

 イヤらしい事関係無く目の保養くらいのついでくらいのつもりで。

 黒歴史の主だけは余分だけれどさ。

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