第17話 魔法使い俺と府中刑務所の元囚人

その1 府中刑務所の脱獄犯

 晩御飯を食べながら事情聴取&状況説明。

 一通り話を聞き終えた朱莉さんは口を開く。


「まず今回に限り犯人はわかっている。悪出戻ワルデモド・マイク・本多ホンダ。つい先日府中刑務所を脱獄したばかりだ。まさかこんな近所にいるとは思わなかった」


「府中刑務所って、魔法使い専用の刑務所でもあるのか」


「いや、普通の刑務所だ」

 朱莉さんは続ける。

「各刑務所は敷地空間を多層化して魔法を使用不可能な状態にしてある。その状態で犯罪的魔法使いをぶちこんでいるんだ。表面上は普通の囚人と変わらないように見えるし魔法が使用不可能だから扱いも同等で大丈夫だ」


「前に犯罪者の魔法使いは個人的に拷問するとか聞いたが」

「拷問しても楽しくない奴というのもいるのでな。そう言う場合は無力化して普通の刑務所にぶち込んでおくんだ。それはそれでかなりの無力感を味わせる事が出来ていい感じらしい。

 だが先日魔法使いが外から脱獄を手引きして刑務所から脱獄。しかもその脱獄させた魔法使いはお前を殺した交通事故を起こした魔法使い本人らしい」


 なぬ。

 そんなところで繋がるのか。

「何か俺に恨みでもあるんですかね」


「単に邪魔なだけだろう」

 あっさりそう片付けられてしまった。

「実際地属性で時空間を操れる奴なんてチートだぞ間違いなく。最悪結果が確定してしまった状態から『全て何も無かった』状態へ戻したりする魔法もあるからな」


「流石にそんな魔法は使えませんよ」

「今はそうだけれどな」

 朱莉さんはにやりとする。


「それにしても随分とまあ色々属性をつけたじゃないか。何人泣かせた、おい」

「かかる火の粉を必死に払っていただけですよ」

 実際そうなのだから仕方無い。


「なら今晩はそのかかる火の粉を払った腕前を見せて貰おうか」


 なんだと。

「敵が襲ってくるんですか」

「いや、布団の上でだ」

 おいおいおい。


「そんな元気じゃ無いですよ。今日もひたすら襲われて疲れ切っているんですから」

「それでも逃げ切れただろ、未来予知魔法まで使って」


「勘で避けただけですよ。百メートル以上間合いがあるから当たりにくいですし」

「たかが百メートル程度の距離で悪出戻ワルデモドが外す筈は無いだろう。奴も歴戦の魔法使いだ。お前が勘だと思っているには立派な予知魔法の一種だ。自由に使えるかどうかはわからんがな」


 そうなのか。

 俺自身は全く魔法を使っているつもりでは無かったんだけれどな。

 でもまあいいか。


「ところで悪出戻ワルデモドや俺を殺した魔法使いは何を企んでいるんですか」


「わからんな。まあどうせ碌でもない事だろうが」

 ふん、と鼻息を鳴らして朱莉さんは続ける。

「魔法使いも長く生き過ぎるとメンタルがだんだん人間離れしていくからな。実際人類絶滅を企てた魔法使いなんてのも過去にはいた訳だ。暇でやる事も無くなったと言ってな」


 何だそれ。

「理解できないですね」


「理解できるようになりたくはないな、まだ」

 そう言って朱莉さんは立ち上がる。

「さて、蒼生は疲れているようだから私が特別サービスをしてやろう」


「何ですか」

「一緒に風呂に入って洗ってやる」


 おいちょっと待った。

 抗議しようとした瞬間。

「フリーズ」

 俺は動けなくなる。


「さあ、私自ら脱がせてやるからな」

 やめてくれ!


「今日はスーパーで随分好き放題をしたようだな。何人脱がせた?」

 あれは安全の為です!

 そう言いたいが声が出ない。


「だからそんな蒼生君にご褒美だ!」

 ああ、やめてくれ……

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