その2 鈴木家の団欒

 鈴木家の夕食は基本スーパーの売れ残り半額弁当。

 本日は焼肉弁当と海苔明太から揚げ弁当。

 ちなみに俺が焼肉弁当、朱莉さんが海苔明太から揚げ弁当だ。

 他に朱莉さんはストロングな缶飲料を一本開けている。


「今日は朱莉さん、ペットボトルの茶飲料じゃないんだな」

「明日は土曜で休みだからな。一本位いいだろう」


 そう言えば今日は金曜日だった。

 悲惨な出来事のせいですっかり忘れていた。


「それで樽田に犯されてみてどうだった。男相手もいいかもと思ったりしたか?」

「何でそれを知っている」

「私は天智天皇、もとい全知全能の魔女だからな」

 おいおい、それは俺のネタだろう。


「今日の事件は黒歴史として全て忘れ去りたい」

「忘れないとならない位気持ちよかったか」

「冗談ぷいだ。最悪にして俺史上最低な事案だ」

「でも実はもう一度なんて思っていたりとか」

「断じてない!」


 思い出すのも汚らわしいし尻の痛みがぶり返しそうだ。

 話題を変えよう。


「ところでダルタニャン先輩に聞いたんだが、元の俺を殺した魔法使い、まだあちこちで事件を起こしているらしいな」


「ああ」

 朱莉さんは頷く。

「最近では他の魔法使いを魔法で操って事件を起こさせてもいたりする。現場に急行して犯人を捕まえても、奴に操られた下っ端だけという状態だ。

 奴本人はやたら逃げるのが上手い。事件の直後に駆けつけても後ろ姿すら掴めない。魔力の残滓から奴本人の魔法紋は取れてはいるのだがな。おそらく移動魔法持ちだろう」


 移動魔法持ちか。

「ダルタニャン先輩のようにですか」

「ああ。確かに奴は使えるな。地魔法使いだし私以上に古い魔法使いだ」


 なんだと。

「そんなに古い魔法使いなんですか」


 朱莉さんは頷く。

「ああ。ただ奴の場合は私らのように義体を乗り継いで若返る必要は無い。肉体の時間を操れるからな。時間操作こそ空間使いたる土魔法使いの真骨頂だ」


 とすると、まさかだけれど。

 でも一応聞いてみよう。

「まさかダルタニャン先輩が犯人という事は無いですよね」


「魔法紋が違う」

 良かった。

 確かに奴には恨みがある。

 でも知っている人間がそういう存在だというのはやっぱり嫌だしな。


「地属性なんて魔法使いは滅多にいないからな。最初の段階で魔法紋を確認済みだ」

 なるほどな。

 そう思った俺に対して朱莉さんはにやっと悪そうな笑いを浮かべる。

「そんなにお前の尻処女を奪った相手が気になるか」


 ちょっと待った!

 そこへ話を戻さないでくれ!


「その事はもう忘れました。記憶二御座イマセン」

「なら私が直々に思い出させてやろうか。グッズを使って」

「謹んでご辞退申し上げます」

「まあそう言うな。私とお前の仲だろう」


 どういう仲かちょい考える。

「生徒と先生ですか」

「創造主と非創造物」


 おいおい。

 確かに義体は朱莉さん作成だが魂は俺自身のモノだぞ。


「それなら朱莉さんは神ですか」

「貴方ハ神ヲ信シマスカ」

「怪しい日本語発音で言わないで下さい」

「信ジルモノは救ワレマス」

「何が救われるんですか」


 ふん、と朱莉さんは鼻息を吐いて言う。

「冗談だ。魔女が神を信じるわけ無いだろう」

「そうなんですか」

 朱莉さんは頷く。

「古い魔女は大体色々観てきて気づくんだ。この世に神などいない事にな」


 何故かその台詞は何かしらの重さを俺に感じさせた。

 それが何の重さがまでは今の俺にはわからなかったけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る