その4 愛の炎、減るファイア!

「もう、急に走ったり立ち止まったり疲れるじゃ無いですか。そろそろ諦めて下さいよ。お願いですから」

 アトス先輩がそんな事を言って近づいてくる。

 しかしもう俺は負ける気がしない。

 浮かんだ呪文を高らかに宣言する。

『減るファイア!』

 俺の炎の魔法がアトス先輩を襲う。


水流の壁ウォーター・ウォール!」

 水の壁が俺の炎の行く手を阻む。

 何を!

 こんな力に彩葉ちゃんから貰った力が負けるはずが無い!

 愛の力を思い知れ!


 俺の放った炎は水の壁を力尽くで通り抜け、アトス先輩を襲った。

 そしてアトス先輩を通り過ぎる。

「な、何ですか今の炎の魔法は」


 ふっふっふっ。

「アトス先輩、お前の服は既に燃えている!」


 はっ、とアトス先輩は自分の身体を見やる。

 制服のブレザーが、スカートが、ブラウスが、その他靴から下着まで全部……

 じわじわ燃えて灰になって、そして散っていく。

 これこそ布地等が減る炎魔法、通称減るファイアだ!

 お肌には一切ダメージを与えない優しい仕様。


「やだー!イヤらしいじゃ無いですか。魔法で制服を直すの結構大変なんですよ!」


「いや、燃えたのは服だけじゃない」

 実はこの魔法、他とひと味違う。

「己の股間を確認してみるがいい。他にも燃えたものがある筈だ!」

 アトス先輩はふっと下を見て確認する。

「ああっ、Vゾーンが何故かつるつるに!」


「この魔法は服だけでは無い。選んだ部分の体毛もまた燃える。そこでだ、もしアトス先輩がここで二人を引き渡し引き下がらないなら、今度は髪の毛もターゲットにする。頭も脱毛してしまうか戦うか、好きな方を選べ!」


「ええ、ハゲになっちゃうの。鬼! 人でなし!」

 俺の命を奪おうとする方がよっぽど人でなしじゃないだろうか。


「だったら此処で二人を解放して、負けを認めろ! そうしないと本当に燃やすぞ。髪の毛も眉毛も睫毛も全部!」


 さあどうだ!

 アトス先輩は髪の毛を押さえて、そして慌てて胸と股間を手で隠す。

「わかったわ。私の負け。だから髪の毛は勘弁して」

「なら二人を解放しろ!」

「え、ええ」


 動きを止めたままだった知佳と翠さんが、いきなり動き出す。

 だが長い間動きを止めていたせいか、二人ともふらりと転びそうになった。

 でも何とか次の瞬間、体勢を立て直す。


 一方でアトス先輩はしゃがみ込んで身体を隠しす。

「もう鈴木君酷いんだから。ダルタニャン様に言いつけてやるから」

 その台詞を残して姿を消した。


 俺の元に知佳と翠さんが駆け寄ってくる。

「やったね、蒼生」

「ああ」

 頷くけれど俺は気になる。

 ダルタニャン様か。

 どんな奴なんだろう。


「まだ残っているのか、あんな面倒な敵」

「みたいだね。でも何とかなるんじゃない、この調子なら」

「だといいけれどな」

 取り敢えず今日は疲れた。

 もうまっすぐスーパーへ行こう。

 俺は箒を取り出す。


「もう今日は襲ってこないだろう。これで帰るぞ」

 俺のスーパーカブでも歩くよりは速くて楽だろう。


「なら後で煽ってあげる」

「やめてくれ。あ、そう言えば翠さんは?」

「一応持っているわ」

 翠さんはクリーム色をした瀟洒な感じのマシンを出す。


「上品な感じだな、それ」

「雀蜂ブランドのプリマベーラ。古いし今となってはパワーもないけれどね、気に入ってはいるんだ」

 そんな訳で三人、箒にまたがった。


「それじゃ明日ね」

「またな」

 それぞれの方向へと別れる。

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