その3 ロリババア、ツンデレ属性に

『何勝手に諦めているのよ!』

 あれ、また聞こえるぞ。

『私を二度も倒した相手がこんなところで負けるのなんて、私は許さないからね!』


『彩葉ちゃんか!本物の』

 気のせいじゃなかったようだ。


『ここで倒れられたら嫌だから力を貸してあげるわ。気がすすまないけれどね。

 まず二十歩急いで後退して。大丈夫、アトス先輩は魔法は強力だけれどとろいから。だからすぐには追いかけては来ないわ』


 俺は言われたとおりにしようかどうか、一瞬考える。

 彩葉ちゃんは俺の隊内の賢者の石を狙っている。

 これまで二度も襲ってきた位だ。

 言われたまま動いていいものだろうか。

 でも……


 俺は更に考える。

 そしてアトス先輩を見る。

 うん、ちょっと細身で挙動不審な感じの一般的女子高生。

 俺の好みとちょっと外れる。

 どうせ倒されるならアトス先輩より彩葉ちゃんの方がいい。

 俺はだからダッシュで二十歩後退。


「あれ、そんな、逃げないで下さい。疲れるじゃ無いですか」

 確かにアトス先輩は走ってはこない。

 同じペースでへろへろ歩いてくるだけ。


『じゃあそこで右を向いて』

 俺は彩葉ちゃんの言う通り右を向く。


『少ししゃがんで!』

 仰るとおりに。


 不意に目の前に彩葉ちゃんが現れた。

「目を瞑って!」

 言われた通りにする。


 両肩に多分手を置かれた感触。

 そしてちょっと掴まれた両肩が引き寄せられて、唇に柔らかい感触を感じた。


『もう、こんなに簡単に私の事信用しちゃって馬鹿なの、蒼生は』

 そう言葉は伝わってくるけれど関係無い。

 俺は彩葉ちゃんとキスしているんだ。

 うん、満足。

 でも本当はもっと色々な事をしたいんだけどさ。

 アレとかコレとあんな事まで。


『返事が無いから続けるけれど、これで蒼生は私の火の魔力が使える筈よ。火の魔力はアトス先輩の水の魔力とは相克関係。だから蒼生次第で強力な魔法が生まれるかもしれないわ。あくまで運次第ではあるけれどね』


『ありがとう、彩葉ちゃん』

 これは本音だ。


『別に私は蒼生の味方になった訳じゃ無いからね。ただ私以外が蒼生を倒すのが嫌なだけなんだからね。間違えないでよ』

 お、これはツンデレという奴か。

 しかも貴重なロリババアのツンデレ。

 これで萌えなければおとこじゃない!

 俺の魔力を司る賢者の石が高鳴っているのが聞こえるようだ。


『それじゃまたね。負けるんじゃないわよ』

 唇が離れるとともに彩葉ちゃんの姿はふっと消えた。

 瞬間移動をした訳じゃ無い。

 魔法で気配と姿を消しただけ。

 今のキスシーンは俺以外には見えていない筈だ。

 俺にだけちょっと隠蔽魔法を解除しただけ。

 そんな感じで。


 さあ、彩葉ちゃんからもらった貴重な魔力。

 これを存分に発揮する番だ。

 俺は今、猛烈に萌えている!

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