第12話 三銃士筆頭アトス

その1 俺の箒を初披露

 学校帰り。

「それで結局、箒は借りられたの?」

 俺は微妙に力なく頷く。

「一応は」


「参考までにどんなのか見ていい」

 幸いこの道には他に人がいない。

 なので俺はささっと自分のマシンを出す。

 なんとも言えない緑色の本体に分厚いシート。

 平べったく実用的な荷台。


「うわっ、おっさんくさ」

「最高に実用的なマシンだね」

 うん、そう言われるのはわかっていたんだ。

 俺もそう思うから。


「スーパー●ブだね。普通はサブマシンか、他のマシンに乗れないくらい魔力が小さい魔法使いしか使わないですけれど、何でこんなのを鈴木先生が」


「もっと速いマシンもあるけれど今はこれで充分だとよ」

 実際今朝乗ってみてかなりがっくりしているのだ。

 一応空は飛べる。

 でも一人乗りでも加速感は知佳のNRとは段違い。

 本気で飛ばしてもすごく遅い。

 ぴっちりスタイルでロード自転車に乗るお兄さんに負ける位だ。


「まあ無いよりはいいと思うよ」

 知佳がそう言葉上は慰めてくれているけれど。


「それはそれで愛情だと思いますよ」

 ふと二人とは違う声がした。

 とっさに声の方を振り返る。

 うちの制服を着た女子がそこに立っていた。

 さっきまで誰もいなかったのに。


「鈴木君が魔力を出来るだけ無駄遣いしないように、鈴木先生がそれを選んだのでしょう。魔力を使うとその分完全な人間化が遅れますから」


 なるほど、そういう事か。

 納得しかけてふと気づく。

 何故この人は俺や鈴木先生のことを知っているんだ。


 彼女は小さく会釈して、口を開く。

「申し遅れましたが、私は三年A組の跡見あとみ珠洲すずと申します。または百合騎士団三銃士筆頭、アトスとも呼ばれています」


 おいちょっと待った。

 三銃士最後の一人かよ。

 何やかんやでアラミス先輩もポントス先輩も強かった。

 新魔法が出なければ倒せなかっただろう。

 ましてや今回は三銃士最後の一人。

 きっともっと強いに違いない。


 こういう場合は、やっぱりこう出るのが正解だろう。

 俺は彼女の方を向いてびしっときをつけ!姿勢になる。

 そして30度の軽いお辞儀を行うと共に一気にたたみかけた。

「これはこれはご丁寧に。わたくし一年E組の鈴木蒼生と申します。それではこの先急いでおります故、ここで失礼させて頂きます」


『ダッシュで逃げるぞ』

 二人にそう魔法で告げる。


 そんな訳で三人で頭を下げると直ちに回れ右。

 早足で駅の方へと歩き出す。


「あの……」

 声が聞こえるが無視だ。

 そのまま競歩選手もかくやという速度で歩き続ける。

 走ってはいけない。

 あくまで急いでいるだけなのだ。

 決して逃げているのでは無いぞ。

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